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医療通訳を活用し、外国人患者と向き合って

2008-09-07 19:53:05 | 多文化共生
(以下、医療介護CBニュースから転載)
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医療通訳を活用し、外国人患者と向き合って

【第27回】鶴田光子さん(「MICかながわ」理事長)

 日本語を苦手とする外国人患者といかに向き合うか―。法務省入国管理局の統計によると、昨年末時点での外国人登録者数は200万人以上。10年間で外国人登録者数は約1.5倍になっており、現在も増加している。在日外国人の中には日本語を話せない人、日常会話レベルの日本語しか分からない人も多く、病院や診療所への受診時にコミュニケーションの問題に直面する。一方で、こうした外国人患者への対応に苦慮する医療機関も多い。
 MICかながわ(多言語社会リソースかながわ)では、外国人患者と医療機関のコミュニケーションをサポートするため、医療通訳を派遣する事業を行っている。在日外国人が医療サービスを受けるに当たって、現在どのような問題があるのか。医療通訳を活用することのメリットは―。長年外国人医療の問題と向き合ってきた、MICかながわ理事長の鶴田光子さんに話を聞いた。(萩原宏子)


―まず、在日外国人の医療の現状についてお聞かせください。
 外国人医療の問題は、以前と比べて、質的に変化してきています。
かつては「外国人」というと、出稼ぎの方が多く、「無保険、お金が無い、言葉が分からない」と、何重もの苦しい立場に追い込まれている人たちでした。しかしここ何年か、外国人の定住化の傾向があります。多くの方がきちんと国民健康保険にも入っており、単なる「労働者」ではなく、日本での「生活者」に変化してきているのです。
 もちろん、中には正式な滞在許可を持たないオーバーステイの外国人もいますし、無保険で困っている方もいらっしゃいます。けれども、現在は言葉の問題がより顕在化していると思います。

―日本語でのコミュニケーションに不安がある在日外国人の方は、病気になった場合、実際にどのように対処しているのでしょうか。
 まず、病院に「行かない」という選択があります。母国から薬を送ってもらうという方もいますが、受診を敬遠した結果、症状が悪化してしまう方もいます。
 それから、日本語ができる家族や友人、会社の人に病院に一緒に来てもらって、通訳をしてもらう方も多いです。

―このような、家族や知人による通訳は、うまく機能しているのでしょうか。
 やはり専門の医療通訳でない、家族や友人、会社の人による通訳では、不十分なところがあると思います。
 よくあるのが、日本語をあまり話せない親の受診に子どもが付き添うというケース。日本で働く親以上に、子どもは日本語の上達が早いので、子どもが通訳として付き添うということがあるのです。ただ、多少日本語を話せるとはいえ、子どもの日常会話のレベルです。「脾臓」「膵臓」と言っても分からないなど、体や病気に関する語彙(ごい)は十分ではありません。また、語彙の問題に加え、近しい人に重篤な病気のことを伝えられるか、という問題もあります。子どもが母親の病気を知り、パニックに陥って訳せなくなり、「お母さん、死んじゃうの」と泣きだしてしまうこともありました。また、これは子どもに限らずですが、近しい人に重病であることを伝えられず、実際の病状より良く表現してしまう方や、訳を自分の意向で変えてしまう方もいます。
 友人や会社の人による通訳にも問題があります。まず、病気というのはプライバシーにかかわることなので、知人の前では答えにくいこともある。家計が苦しくて治療費が払えないなどの問題も伝えにくい。外国人をたくさん雇っている会社の雇用者が一緒にいらっしゃることもありますが、被雇用者の患者さんはたいてい下の立場にあるので、「サービス残業が多い」「実は保険に加入していない」など、会社にとって都合の悪いことをなかなか言えません。

―MICかながわでは、日本語が苦手な外国人患者が受診する際の医療通訳を派遣しているということですが、医療通訳が付くことで、患者さんにはどのような変化がありますか。
 自信を持って発言し、行動できるようになります。
 以前こんなことがありました。ある外国人患者の方が診察を受けに来たのですが、付き添っていた雇い主の方が出しゃばって、患者さんに代わってばーっと話している。その時、当の患者さんはうつむいて、すごくしおれた感じでした。けれども医療通訳が付いてからは、見る見るきりっとして、自分の言葉できちんと説明したり、意見を言ったりするようになりました。それまでは、ただ「分かりません。お願いします…」という感じだったのに、自分できちんと行動を起こせるようになったのです。やっぱり、自分の言葉で話すというのは人間の尊厳を取り戻すことなのだ、と思いました。

―医療を行う側にとってのメリットは。
 診療をする上でとても役に立つと思います。症状には見て分かるものもありますが、聞かないと分からないものもあります。症状がはっきり分かると、当然、治療しやすくなる。
 患者への説明責任を果たすことができるというのも大きなポイントです。ただ医療者の側から情報を患者に発信するだけでなく、きちんと患者が意味を理解し、合意した上で治療を行うことができる。従って、訴訟リスクの回避など、リスクマネジメントの点でも非常に有効です。
 また、患者と医療者がお互い理解し合うことができるので、信頼関係の構築につながります。
 実は、最初のうちは「医療通訳など要らない」「時間が2倍かかってしまう」「ある程度日本語が話せるのなら、それでいいではないか」とおっしゃる医療者の方が多いのですが、MICの医療通訳を利用してみると、その良さを分かってくださいます。特に重病の告知や治療方針の説明など、難しいことを伝えるときは、「専門の医療通訳が良い」と皆さんおっしゃいます。
 MICでは昨年にアンケート調査をしたのですが、「MICの医療通訳派遣開始以前のコミュニケーション手段より、訓練を受けた医療通訳の方が良い」と回答してくださった医師は、回答者全体の90%以上という結果になりました。実際に利用してくださった医療スタッフの方には高い評価を頂いています。

―今までの経験から、医療通訳の必要性を実感しているとのことですが、現場の医療スタッフにはどのようなことを求めたいですか。
 まず、通訳の必要性を認識していただきたいと思います。医療通訳は「あってもなくてもいいもの」ではなくて、診療に「必要なもの」です。言葉が通じないと診療はできませんので、とても大事だと思います。
 また、医療通訳を、スキルを身に付けた「専門家」とみなしていただきたいと思います。医療通訳は専門職として認められておらず、認知度も低いため、医療スタッフの方の中には、「患者さんと一緒に、何かおばさんが来た」というような感じで対応したり、低く見たりする方もいるのが現状です。

―医療通訳を普及するには、どのような対応が必要だと思いますか。
 やはり、何らかの形で国の制度にしないといけないと思います。コメディカル職種の一つとして認め、きちんと金銭的にも支えてほしい。
 現在、医療通訳が直面する課題の一つに金銭的な問題があります。MICでは基本的に、交通費も含めて3時間で3000円を医療機関から通訳に支払ってもらうことにしています。けれども、これだと交通費だけで足が出てしまうこともある。正直なところ、通訳の方のボランティア精神に頼っているのが現状なのです。実際、通訳をしてくださっている方には、専業主婦や定年退職後の男性が多いですね。
 ただ、これだと医療通訳が育たない。以前医療通訳をしてくださった方に、「フルタイムの他の仕事が見つかったので、もう医療通訳はできない」という方がいました。当然ですが、通訳の方にも生活があります。生活していけないと続けられない。ですから、医療通訳の常駐や派遣を診療報酬の点数に組み込むとか、あるいは加算の対象にするとか、そのような制度化をしてほしい。医療通訳を専門職として認めて、医療通訳で生活していけるようにしてほしい。そうすれば、医療機関側も安心して活用できるので、もっともっと普及すると思います。
 そして、そのような制度化の必要性について、ぜひ医療者の側から声を上げてほしい。患者さんの側が「医療通訳が必要だ」と言うだけだと、どうしても「患者さんが自分でお金を払えばいい」ということになってしまう。だから、医療者の方に、「医療通訳は医療に欠かせないものなんだ。必要なものなんだ」と、声を上げてほしいと思います。
 これはわたしの実感なのですが、医療者の方たちは一度問題を知ってくださるとすごく味方になってくれる。もともと「人を助けたい」と思っている人たちだから。医療通訳も、会議通訳などの仕事の方がずっともうかるのに、病気という一番つらい時に人を助けたいという気持ちがあるからこそ、医療通訳という割の合わない仕事をしている。志は一緒なのです。医療者の方と、もっと協力していきたい。そう思います。

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