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アイヌの今:民族共生に向けて/下 教育 /北海道

2009-01-14 09:38:43 | 多文化共生
(以下、毎日新聞から転載)
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アイヌの今:民族共生に向けて/下 教育 /北海道
 ◇異文化知り豊かに--地域や学校間で温度差

 「私らは今でもこんな家に住んでると思うかい」。アイヌ民族博物館(胆振管内白老町)の伝統家屋チセで、民族衣装を着た解説員、野本三治さん(46)が道外から来た修学旅行生たちに話しかけた。引率の女性教諭にも「あなた、そう思ったでしょう」と尋ねると、教諭は「はい」とうなずいた。

 明治政府の同化政策によってアイヌ民族は昔ながらの生活や言葉を捨てさせられた。しかし、アイヌ民族博物館を訪れる観光客や修学旅行生には、今もアイヌが伝統的な生活をしていると誤解している人も多く「アイヌも靴下を履くの?」「日本語上手だね。どこで学んだの?」などの珍問が後を絶たない。

 「少数民族について幼いころから正しく学べるようになってほしい」と野本さんはいう。政府がアイヌを先住民族として認めてこなかったツケが教育のひずみとなって表れ、「アイヌを知らない日本人」を生んでいる。

    ◇

 日高管内浦河町立堺町小学校の日比野裕司教諭(54)はアイヌに関する教育に力を入れている。名古屋市に生まれ、自宅近くの在日朝鮮人集落には「危ないから行ってはいけない」と言われて育った。大学時代に人権や民族問題を学んで少数民族への差別を知り、教育の重要性を感じた。今は独自のカリキュラムを作り、国語や社会、道徳などの授業にアイヌの文化や歴史を織り交ぜて指導する。

 成果を実感したこともある。04年11月、芦別市立芦別小学校で4年生を受け持った時、アイヌ民族の現状を教えていたところ、1人の男児が意を決したように立ち上がった。「ぼく、アイヌだよ」。教室にどよめきが起こった。「おお」「すごい」。差別的な反応は一切なかった。同級生の感嘆のまなざしに照れたような笑みを浮かべた男児の表情が忘れられない。

 日比野さんは「少数民族のアイヌが『自分はアイヌだ』と胸を張って言える社会にしたい。そのためには教育の役割が大きい」と力を込める。

    ◇

 道教委は小中学校教員の初任者研修の手引きにアイヌ文化を授業で取り上げるよう明記しているほか、教委内に「アイヌ教育相談員」を配置。08年度からは白老町などで小中学校を通じたカリキュラム作りを始めた。3年かけて完成させ、全道への普及を目指す。

 しかし、白老町立萩野中学校の古俣博之校長(56)は「意識の高い先生は増えてきたが、まだまだ地域や学校間で温度差がある。教育の実践例を示したり、教員研修を増やすべきだ」と指摘する。教育内容は学校現場の裁量が重視されるとはいえ、アイヌの多い道内でさえ十分な教育が行われていない現状を憂える声も強い。

 札幌大文化学部の本田優子教授(アイヌ史)は「アイヌを学べば多様な文化を知ることができ、日本社会はもっと豊かになるはずだ」と提起する。収奪や差別の歴史も含む「アイヌ教育」が全国に広がれば、多民族の「共生」する社会に大きく近づくはずだ。

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 この企画は金子淳、高山純二が担当しました。

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 ■ことば
 ◇アイヌに関する教育の取り組み

 文部科学省によると、小中学校の学習指導要領でアイヌ民族を指導事項に位置づけているのは、中学校社会だけ。小学校は学習指導要領での位置づけはないものの、地域学習の一環でアイヌ民族に触れている教科書もある。道教委は地域学習を充実させようと08年度から3年間かけて「北の大地に根ざした豊かな学び推進事業」を実施し、アイヌに関する教育のモデルカリキュラム作成を行っている。

毎日新聞 2009年1月11日 地方版

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