(以下、現代ビジネスから転載)
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2015年04月25日(土) 毎日フォーラム
毎日フォーラム~毎日新聞社
通訳案内士制度見直しの動き
多言語の人材、質の向上、就業増など課題が浮き彫り[観光]
訪日外国人観光客の増加に伴い通訳ガイドのニーズが多様化している中で、国家資格の通訳案内士を仕事としている人が少なく、専門言語が英語に偏重しているなどの問題点が浮き彫りになってきた。国は東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年までに外国人観光客2000万人を目指しており、ボランティアも含めた通訳人材の確保が急務だ。このため、観光庁は実態に沿うように通訳案内士制度を見直すための議論を始めている。
通訳案内士は、1949年施行の通訳案内士法で設けられた国家資格で、試験に合格して都道府県知事の登録を受ける必要がある。言語は英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、韓国語、タイ語となっており、年齢や性別、学歴、国籍などに関係なく受験できる。
外国人旅行者に日本を正しく理解してもらうために語学力だけでなく、日本の地理や歴史、産業、経済、政治、文化といった分野の幅広い知識が求められる。その後、06年には都道府県が試験する「地域限定通訳案内士」が設けられた。さらに規制緩和で特例が認められ、国家試験に代えて地方自治体の研修を修了した者を登録する「特例ガイド」が創設された。
観光庁は、資格制度の創設から60年以上が経過しているから、制度の見直しが必要と判断して昨年、「通訳案内士制度のあり方に関する検討会」を設置し、これまでに7回の検討会を開いている。通訳案内士団体やボランティアガイド団体、観光・経済団体などからヒアリングを続けており、それをまとめた結果は、政府全体で取りまとめる「観光立国実現に向けたアクション・プログラム2015」に盛り込む予定だ。
観光庁によると、通訳案内士は現在、全国で1万7736人が登録されている。このうち、75・0%が首都圏や京都、大阪、兵庫といった都市部に集中している。専門の言語は英語が全体の66・9%と多く、他の言語の通訳案内士が少ないのが現状だ。
検討会では、観光庁が13年度に通訳案内士と地域限定通訳案内士、特区ガイドの資格保有者1万6370人にアンケートした結果が報告された。回答を寄せた6928人のうち74・0%が都市部に居住しており、海外試験を実施して海外在住者の資格取得にも努めてきたが、その割合は1%にとどまっていた。また、75・7%が資格を取得しても未就業で、18・1%が兼業、通訳案内を専業としている人は6・2%に過ぎなかった。未就業の理由で最も多かったのは「収入が見込めない」ことだった。一方で今後、資格を活用して就業したいという割合は3割程度あった。検討会は「活動範囲を広げるための環境改善や運用整備が必要」と課題を示した。
旅行業界からのヒアリングでは、地方の通訳案内士不足や多言語対応の人材の不足、海外在住者が資格を取りやすい仕組みづくり、通訳案内士と外国人客とのマッチングの必要性などを指摘する声が出された。欧米からの訪日客は建築や祭りなど歴史、文化に関する知識を求めるが、東南アジアの訪日客は日本の流行や買い物スポットなどの情報を求めることが多い、など国によって通訳案内に求める分野が異なることという指摘もあった。
一方で、通訳案内士やボランティアガイド団体からは、現状では人材は余っており、特に地方からは仕事不足を嘆く声が現場から出ているとし、旅行業界側の主張とは異なる意見が出される場面もあった。さらに、質の高い資格取得者が外国人客に高品質なサービスを提供することがリピーター化につながるとの声もあった。このほか、ボランティアガイドや地域限定通訳案内士が地方では「点」として活躍し、通訳案内士が「線」として全体を補うなど、すみ分けて観光立国実現を目指そうという意見もあった。
観光地の自治体は、独自の取り組みを始めているところがある。
外国人観光客の増加を受けて京都市は、国の特区制度を利用して市内限定の特例ガイドの養成を来年度から始める。古都ならではの伝統文化や文化財など専門分野別の研修をしたうえで認定するという。同市によると、昨年末時点で京都府内の通訳案内士は717人いるが、実際に稼働しているのは4分の1程度という。13年の京都市内の外国人宿泊客数は過去最高の113万人で、増え続ける外国人客に追いついていないという。同市は、通訳に必要な通常の研修に加え伝統産業や伝統文化・芸術、文化財など専門性の高い研修を16年度に100人程度でスタートするという。同市は「中国語や韓国語など、なるべく多くの言語に対応できるようにしたい」と話している。
13年度に外国人観光客が前年比45・9%増の115万3100人で過去最多になった北海道は、通訳ガイドの養成など、受け入れ態勢の整備を急ピッチで進めている。道は17年度までに外国人観光客を120万人にする目標を掲げており、昨年9月から昨年末まで通訳ガイドの研修会を開いた。道内の通訳案内士の登録者は約300人いるが、実際にガイドとして活動しているのはその1割程度のため、研修会はそうした資格所有者や今後取得を目指す人を対象とした。
特例通訳案内士として「沖縄特例通訳案内士」が認められている沖縄県では2月11日に、通訳案内士と観光業界を結ぶ「マッチング会」が那覇市で開かれた。同県の通訳案内士は約200人が登録されているが、通訳案内士から「旅行業界とのコネクションがない」などの声が出ていた。マッチング会では、英語や中国語、韓国語で資格を持つ約50人が15の観光業者と面談した。
民間企業も通訳案内士の育成に協力している。日本航空は「九州観光推進機構」と、特例ガイドである「九州特区ガイド」の育成とそのPRについて連携、協力を行うための協定を2月18日に締結した。13年2月に指定をうけた「九州アジア観光アイランド総合特区」では124人の特例ガイドが誕生している。3月18日には福岡市内で「九州アジア観光アイランド特区ガイドスキルアップセミナー」が開かれ、日本航空客室教育・訓練室のサービスアドバイザーが、JAL流のおもてなしやコミュニケーション術などを講義した。同社は「今回の協定で九州観光の需要のさらなる創出に寄与したい」と話している。
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2015年04月25日(土) 毎日フォーラム
毎日フォーラム~毎日新聞社
通訳案内士制度見直しの動き
多言語の人材、質の向上、就業増など課題が浮き彫り[観光]
訪日外国人観光客の増加に伴い通訳ガイドのニーズが多様化している中で、国家資格の通訳案内士を仕事としている人が少なく、専門言語が英語に偏重しているなどの問題点が浮き彫りになってきた。国は東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年までに外国人観光客2000万人を目指しており、ボランティアも含めた通訳人材の確保が急務だ。このため、観光庁は実態に沿うように通訳案内士制度を見直すための議論を始めている。
通訳案内士は、1949年施行の通訳案内士法で設けられた国家資格で、試験に合格して都道府県知事の登録を受ける必要がある。言語は英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、韓国語、タイ語となっており、年齢や性別、学歴、国籍などに関係なく受験できる。
外国人旅行者に日本を正しく理解してもらうために語学力だけでなく、日本の地理や歴史、産業、経済、政治、文化といった分野の幅広い知識が求められる。その後、06年には都道府県が試験する「地域限定通訳案内士」が設けられた。さらに規制緩和で特例が認められ、国家試験に代えて地方自治体の研修を修了した者を登録する「特例ガイド」が創設された。
観光庁は、資格制度の創設から60年以上が経過しているから、制度の見直しが必要と判断して昨年、「通訳案内士制度のあり方に関する検討会」を設置し、これまでに7回の検討会を開いている。通訳案内士団体やボランティアガイド団体、観光・経済団体などからヒアリングを続けており、それをまとめた結果は、政府全体で取りまとめる「観光立国実現に向けたアクション・プログラム2015」に盛り込む予定だ。
観光庁によると、通訳案内士は現在、全国で1万7736人が登録されている。このうち、75・0%が首都圏や京都、大阪、兵庫といった都市部に集中している。専門の言語は英語が全体の66・9%と多く、他の言語の通訳案内士が少ないのが現状だ。
検討会では、観光庁が13年度に通訳案内士と地域限定通訳案内士、特区ガイドの資格保有者1万6370人にアンケートした結果が報告された。回答を寄せた6928人のうち74・0%が都市部に居住しており、海外試験を実施して海外在住者の資格取得にも努めてきたが、その割合は1%にとどまっていた。また、75・7%が資格を取得しても未就業で、18・1%が兼業、通訳案内を専業としている人は6・2%に過ぎなかった。未就業の理由で最も多かったのは「収入が見込めない」ことだった。一方で今後、資格を活用して就業したいという割合は3割程度あった。検討会は「活動範囲を広げるための環境改善や運用整備が必要」と課題を示した。
旅行業界からのヒアリングでは、地方の通訳案内士不足や多言語対応の人材の不足、海外在住者が資格を取りやすい仕組みづくり、通訳案内士と外国人客とのマッチングの必要性などを指摘する声が出された。欧米からの訪日客は建築や祭りなど歴史、文化に関する知識を求めるが、東南アジアの訪日客は日本の流行や買い物スポットなどの情報を求めることが多い、など国によって通訳案内に求める分野が異なることという指摘もあった。
一方で、通訳案内士やボランティアガイド団体からは、現状では人材は余っており、特に地方からは仕事不足を嘆く声が現場から出ているとし、旅行業界側の主張とは異なる意見が出される場面もあった。さらに、質の高い資格取得者が外国人客に高品質なサービスを提供することがリピーター化につながるとの声もあった。このほか、ボランティアガイドや地域限定通訳案内士が地方では「点」として活躍し、通訳案内士が「線」として全体を補うなど、すみ分けて観光立国実現を目指そうという意見もあった。
観光地の自治体は、独自の取り組みを始めているところがある。
外国人観光客の増加を受けて京都市は、国の特区制度を利用して市内限定の特例ガイドの養成を来年度から始める。古都ならではの伝統文化や文化財など専門分野別の研修をしたうえで認定するという。同市によると、昨年末時点で京都府内の通訳案内士は717人いるが、実際に稼働しているのは4分の1程度という。13年の京都市内の外国人宿泊客数は過去最高の113万人で、増え続ける外国人客に追いついていないという。同市は、通訳に必要な通常の研修に加え伝統産業や伝統文化・芸術、文化財など専門性の高い研修を16年度に100人程度でスタートするという。同市は「中国語や韓国語など、なるべく多くの言語に対応できるようにしたい」と話している。
13年度に外国人観光客が前年比45・9%増の115万3100人で過去最多になった北海道は、通訳ガイドの養成など、受け入れ態勢の整備を急ピッチで進めている。道は17年度までに外国人観光客を120万人にする目標を掲げており、昨年9月から昨年末まで通訳ガイドの研修会を開いた。道内の通訳案内士の登録者は約300人いるが、実際にガイドとして活動しているのはその1割程度のため、研修会はそうした資格所有者や今後取得を目指す人を対象とした。
特例通訳案内士として「沖縄特例通訳案内士」が認められている沖縄県では2月11日に、通訳案内士と観光業界を結ぶ「マッチング会」が那覇市で開かれた。同県の通訳案内士は約200人が登録されているが、通訳案内士から「旅行業界とのコネクションがない」などの声が出ていた。マッチング会では、英語や中国語、韓国語で資格を持つ約50人が15の観光業者と面談した。
民間企業も通訳案内士の育成に協力している。日本航空は「九州観光推進機構」と、特例ガイドである「九州特区ガイド」の育成とそのPRについて連携、協力を行うための協定を2月18日に締結した。13年2月に指定をうけた「九州アジア観光アイランド総合特区」では124人の特例ガイドが誕生している。3月18日には福岡市内で「九州アジア観光アイランド特区ガイドスキルアップセミナー」が開かれ、日本航空客室教育・訓練室のサービスアドバイザーが、JAL流のおもてなしやコミュニケーション術などを講義した。同社は「今回の協定で九州観光の需要のさらなる創出に寄与したい」と話している。
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