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「看護師免許保持者の半数近くが『潜在看護師』」

2008-04-15 09:43:44 | 多文化共生
 看護師不足で、フィリピンからの人材受入を始めようとしているところだが、まずは主体的に働いていける環境づくりの方が先だと思われる。

(以下、プレジデントから転載)
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「看護師免許保持者の半数近くが『潜在看護師』」


「氷河期」が続いていた採用市場だが、昨年ごろから好転し、バブル期以来の売り手市場となっている。
 企業の人事担当者は、優秀な人材の確保に頭を悩ませなくてはならないうえ、採用した後も悩みは尽きない。次々に出る新商品や新サービスに対応したり、めまぐるしく変わる顧客の要望に応えるストレスに、社員が疲弊して辞めてしまわないよう、気を配る必要があるからだ。
 実は、こんな悩みがより深いのは、看護師の世界だ。夜勤がある、重労働、待遇がよくない……。厳しい条件が揃っている。人口の高齢化による医療ニーズの高まりなどから、看護師不足はさらに深刻になっている。看護師を確保できなかったために病院が閉鎖に追い込まれるケースも出ているほどだ。看護師採用の現場で得られた質の高い人材を確保し育成するプロセスは一般企業にも参考になるだろう。
 日本看護協会によると、毎年約5万人が看護学校などを卒業、そのうち約3万8000人が看護師として就職するが、9.2%は1年以内に離職、新卒以外も含めた離職率は12.4%に上る(2007年の調査結果)。
 つまり、看護師資格を持つ人材が不足しているというよりも、多くの看護師たちが医療現場を離れてしまうことが、現在の看護師不足の原因の一つといえそうだ。
「現在日本には、看護師の資格を持つ人が約120万人いますが、そのうち半数近くにあたる約55万人は看護師の職についていない『潜在看護師』だといわれています」と、看護師の人材紹介を行うスーパーナース社長の西川久仁子氏は説明する。
「看護師不足が深刻化する中で、最近になってこの潜在看護師に注目が集まっています」(西川氏)
 潜在看護師を医療現場に呼び戻す動きが起きてきたきっかけの一つが、06年4月の診療報酬改定だ。入院患者対看護師の比を「7対1」に増やすことで、病院への診療報酬が増額されるようになったため、全国の病院で看護師の争奪戦が繰り広げられるようになったのだ。
 済生会横浜市東部病院(以下、東部病院)では、横浜市鶴見区下の四病院と共同で、潜在看護師向けの病院見学・体験会を開催している。
「この活動は自分の病院の看護師を確保することが目的でやっているのではありません。今の医療現場を見て、研修を通して技術を思い出し、臨床に戻ってきてほしい。看護師は地域にとっても日本にとっても財産ですから」と、同病院副院長で、看護部長の熊谷雅美氏は説明する。
 前述のスーパーナースでは、東京大学医学部附属病院と共同開発した「Re‐ナース」プランという再就業支援プログラムを実施している。文部科学省の平成 19年度「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム」委託事業に選ばれたため、受講料は900円(5日間コース)か1800円(10日間コース)。東大病院の設備を使い、同病院の職員による安全対策や感染対策などの座学や、採血や注射、救急対応などの演習を受けられる。これまで2回実施し、25人の受講者のうち約7割が実際に医療現場への復帰を果たしている。
 東部病院やスーパーナース以外の病院や団体でも、潜在看護師の現場復帰を目的とした研修が行われている。これらは、潜在看護師の復帰のハードルを下げるきっかけとなる。
 一方で、看護師の離職率を下げるために重要となるのが、病院側の受け入れ態勢である。
 日本看護協会の調査によると、07年度に採用予定数の看護師を確保できた医療機関は全国平均で約7割に留まっている。
 そんな中、東部病院では「多くの看護師が、なぜ現場を離れてしまうのか」に着目、職場環境を整えることで500人規模の看護師を採用し、昨年3月に開院に至った。離職率も5~6%と、全国平均の半分以下に留まっており、看護師不足に悩む医療業界で注目を集めている。
「日々医療が進歩する中、安全を担保しながら新しい医療を行うには、やはり看護師の力がカギとなります。しかしながら、看護師の採用には今でも苦労しています。(入院患者と看護師の比率は)7対1を維持していますが、看護師一人ひとりにかかる責任の重さを考えると、まだ人数が足りません」と熊谷氏は語る。
 同病院の看護師は、今年4月には約530人に達するというが、開院時は500人の目標に達することができず、一部の病棟は閉めたままで開院を迎えた。採用に苦労する中で熊谷氏は、大きな疑問を持った。「なぜ、一度臨床の現場に出た看護師が現場を離れてしまうのか? 現場にどんな問題があるんだろうか? それを知りたいと思いました」(熊谷氏)。

働き続けたいのに、
疲弊して辞めていく


 看護師へのインタビューを通して見えてきたのは、多くの看護師が「働き続けたい気持ちはあるのに、疲弊して辞めている」という現状だった。
 看護師が不足している現場では、一人ひとりの負担や責任が増し、疲弊して辞めてしまう。医療事故に注目が集まる中で、看護師へのプレッシャーも高まっている。休みも取れない。結婚して子供が生まれても、ライフスタイルの変化に合わせた働き方の選択肢がない……。疲れ切って辞めていく看護師の悲痛な声に、病院側が応えきれていないことが、看護師不足を招いている一因だった。
「看護師の確保だけが問題ではない。新しい病院では、看護師を不幸にしてはいけないと思いました」、熊谷氏は振り返る。
 そして、プロとしてのキャリア形成、働きやすい職場環境、(家庭を含めた)ライフスタイルの尊重の三つを備えた職場をつくるべく、一つひとつ形にしていった。
 まずはキャリア形成について。多くの病院では数年ごとに異動があり、必ずしも本人が希望する科に所属できるわけではないが、同病院では各人に希望の配属先を聞き、それを100%叶える。
 管理職、教育担当、スペシャリスト、ジェネラリストなどの将来像についても、本人の希望に沿った進路をとれるよう、研修を受けさせるなどのサポートを行っている。例えば管理職を希望する看護師には、外部の管理職研修などのキャリア形成支援が行われる。また、がん、小児、手術、透析などの特定分野で専門性を持って働きたい場合には、日本看護協会で専門看護師、認定看護師の資格認定を受けられるようサポートをする。
「看護師には、自分で決めた専門性を持ち、アイデンティティーを持ってほしいんです」と熊谷氏は言う。
 風通しがよく、働きやすい職場をつくるための工夫もした。
 看護師間、医師、患者や患者家族などとの人間関係は看護師のストレスの大きな要因となる。熊谷氏は、「余計なストレスから看護師を守る環境をつくりたい」と考えた。
 病院内でのコミュニケーションを円滑にし、一人ひとりが抱える問題やストレスを共有できるよう、フラットな組織を心がけた。例えば看護部長、看護師長などの役職名で呼ばず、名前で呼ぶようにした。また、現場主義を貫き、できるだけ看護師長と現場スタッフで判断したことを、上司に事後報告させる形にするよう徹底した。
 ユニフォームは自由に選ぶことができる。自分で準備したものを着てもいいし、病院で用意したものでもいい。病院では、複数のデザインのものが更衣室に用意されており、その都度好きなものを着用することができる。医師も看護師も同じ仕組みで、着衣で見分けはつかない。
 熊谷氏は語る。「5年目くらいの若い看護師ですが、『昼間の勤務のときはピンク、夜間の勤務のときは紺色を着る』と言うんです。なぜかと聞いたら、『昼間は手術があったり、入院・退院があったりするので、患者さんに元気をあげられるピンク。夜は皆さん眠らなくてはいけませんから、落ち着く紺色です。万一患者さんがお亡くなりになったら、やはり紺色にします』と。小さなことかもしれませんが、やはり自分で決めさせると、そこからプロになっていくんです」。

24時間、365日稼働の
保育施設を設置


 家庭を含め、看護師が希望するライフスタイルを可能にする工夫もある。
 子供を持つ看護師が働きやすいよう、保育施設を整備。夜勤などにも対応できるように24時間365日稼働となっている。
 東部病院では、病院によっては抵抗感の強い、パートや派遣の看護師も採用している。「『子供がいるので週2回しか働けない』『子供の夏休みの2カ月間は働けない』という人もいました。最初は私も悩みましたが、彼女たちは、それでも看護師に戻りたい、この病院で働きたいと思ってくれている。その気持ちを大事にしたいと思ったんです」(熊谷氏)。
 現在では看護師のうち8.7%が、パートと派遣だ。「1割くらいになってもいい」と熊谷氏は考えている。「これからは多様な働き方を認めていかなくては、看護師の世界は行き詰まる」との危機感を持っているからだ。
 同病院では、パートや派遣の看護師も、同じプロとして常勤職員と同様の責任を与えている。仕事内容も、常勤、非常勤の区別はない。しかも、表面的な掛け声に留まらず、雇用形態が違う看護師が共存する組織となっている。
「看護師は昔から、同じ釜の飯を食って、夜勤などの苦労を共にしないと認めないという、排他的なところがありました。私は新しい病院を、そういう組織にはしたくなかったんです。パートや派遣の看護師も排除されず、一緒に働ける文化ができたことは誇りです」と熊谷氏は笑顔を見せる。
 最近、熊谷氏は転んで腕を骨折、患者として自分の病院の看護師の仕事ぶりを見る機会があった。「新人の常勤看護師がリハビリの説明をしてくれたのですが、後ろからパートのベテラン看護師が新人を指導しているんです。パートだからといって引け目を感じず一生懸命指導している様子を見て嬉しかったです。看護師は専門家集団ですから、力量さえあれば雇用形態は何でもいい。そしてキャリアがあり技量のある看護師が、後輩を指導していくことが大切なんです」(熊谷氏)。
 パートや派遣の看護師が共存することは、常勤職員にとってもプラスになる。将来ライフスタイルが変化した場合に、違う雇用形態でも、やりがいを持って働き続けることができるという例が、目の前にあることは心強い。常勤職員が、専門分野の勉強をするために一時的にパートに変わったケースもあった。逆に、派遣やパートの看護師が、常勤を希望することもあるという。
 看護師が職場に求めるものと、病院が看護師に提供できるもののギャップが狭まらないと、定着率は上がらず、看護師不足は解決できない。東部病院は、そのギャップを埋めることができた一つの例だ。
 日本看護協会が07年に行った調査によると、看護師の定着対策に効果があった施策として、「夜勤専従、パートタイマー、短時間勤務導入などによる多様な勤務形態の導入」を挙げた病院が7割に上った。次いで「子育て支援策の充実」「教育研修体制の充実」の効果が高かった。東部病院の施策とも合致する。
 診療報酬の改定への対応、患者サービスの向上、医療事故の防止などのためには、質の高い看護師の確保が必須だ。これは病院経営に直結し、対応できない病院はどんどん潰れていく時代になっている。
 西川氏も「看護師は現在、超売り手市場です。『月何回でも夜勤ができて、仕事だけに命を懸けている人でないと採らない』と言っている病院には看護師が来ません。柔軟に、さまざまなワークスタイルを認めて看護師を増やさないと、結局今いる看護師も疲れて辞めてしまうという負のスパイラルに陥ります」と話す。
 一般企業にもいえることだが、経営側の都合を押し付けていては、優秀な人材の確保はできないのだ。

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