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カルビー会長 ダイバーシティーは成長のエンジン

2014-10-16 09:55:19 | ダイバーシティ
(以下、日経DUALから転載)
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カルビー会長 ダイバーシティーは成長のエンジン

松本晃会長 「人口の半分を占める女性に活躍してもらうのは当然」


「なでしこ銘柄」は、女性の活躍推進に優れた上場企業を経済産業省と東京証券取引所が共同で選定するもの。日経マネー編集部では2013年秋、独自調査により「女性活躍推進」だけでなく「業績」との両軸で成果を挙げている企業10社を「日経マネーなでしこ銘柄」として選定しました。

その1社に選ばれたのが、カルビー。2009年に代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO)に就任した松本晃氏の指揮のもと、以降、利益も売上高も毎年成長し続け、女性管理職比率は6%弱から14%強へと上昇しています。時短勤務の女性役員や女性工場長も誕生。一貫してダイバーシティを推進してきた松本会長に、日経DUAL編集長の羽生祥子が聞きました。

「なぜ人口の半分を占める女性を活用しないのか?」と問われて発奮

カルビー会長兼CEOの松本晃氏
カルビー会長兼CEOの松本晃氏
羽生祥子日経DUAL編集長 専門家に「ダイバーシティーや女性活用に意欲と推進力がある経営者は?」と聞くと、必ず松本会長のお名前が挙がります。松本会長がダイバーシティー推進に取り組み始めたのは、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人(以下、J&J)に在籍されていたころからですよね。

松本晃会長兼CEO(以下、敬称略) J&Jの社長に就任して3年目、2001年のことでしたね。グローバルなミーティングで、本社の上司に言われたんです。「お前は何をやっとるんだ」と。「俺が知っているかぎり、日本の人口の半分は女性のはずだ。なのにお前は女性を全く活用していないじゃないか」と。

―― 当時、社内に女性の管理職や役員はどのくらいいたのでしょう。

松本 女性社員はたくさんいましたが、管理職はほとんどおらず、執行役員にいたっては1人もいないという状況でした。その上司が言うには「世界中で女性を活用していないのは2カ国だけ。日本とパキスタンだ。パキスタンは宗教上の理由があるから理解できる。日本は何の理由もない。なぜやらないんだ」と。僕は素直なんでね(笑)、「やってみるか」と発奮したのです。

―― どこから着手したのですか。

松本 何か始めるとなったら、まずゴールセッティングするんです。そこで、社長の任期だった2008年3月までに「35-25-25」という数値目標を設けた。女性の比率を全社員の35%、管理職の25%、執行役員(ディレクター)の25%にするという意味です。そして「僕の定年退職までにこれをやってやるわ」とみんなに宣言した。「俺はやる」と。

女性の登用は「まとめて複数」がカギ


―― それを着実に実行されたんですね。

松本 14ある事業部のうち6事業部の責任者が女性になりました。

―― 一気に半分近くを占めるようになったとは。当の女性達は、抜てきされて昇進することにひるんだりはしなかったのでしょうか。

松本 他の女性が昇進しているのを見れば、「あの人ができるなら私にもできる」と思えるようになると思うんです。それで、なってみたら何てことはなかった、と。大事なのはね、1人だけしたらあかんということです。(米フェイスブックの最高執行責任者)シェリル・サンドバーグの著書(『LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲』)にもそういったことが書かれていたけれど、女性を1人だけ執行役員や取締役に引き上げるというのは、やり方としてはよくないでしょうね。

―― 女性を登用するなら複数を、ということですね。

松本 まとめてどばっと、何人か登用しちゃったほうがいい。

社内では女性が活躍し、会社の業績も伸び続ける

―― J&J在任中には会社の業績も伸びました。

松本 中核事業である医療機器分野では、在任中、年平均で売り上げは18.9%成長していました。利益も毎年29%増。退任時には、就任時と比べて売り上げは3.6倍、利益は数十倍に拡大していましたね。

―― そして、2009年にカルビーの会長兼CEOに就任されてからも業績が伸びていますね。

松本 過去2期(2013年3月期と2014年3月期)を見ると、カルビーの純利益は前年と比べて約30%成長しています。売り上げは8%くらいですが。

―― 高過ぎた製造原価を見直して、もうかる仕組みを作られたと聞きました。そうした事業構造の改革を行う一方、ダイバーシティーも推進されています。女性の登用に関しては、時短勤務の女性を役員に登用したり、工場長に女性を抜てきしたりと、世間が驚くようなニュースがありました。

松本 就任時には5.9%だった女性管理職比率は、今は14.3%まで上がりました。当初の目標に対してちょっとペースが遅いですが。政府が目標として掲げる「2030」(2020年までに指導的立場の女性を30%に増やす)ね、私、あれで一番乗りしてやろうと思ってます。

「正しいこと」をしていれば結果は必ずついてくる


―― 女性活用も会社の業績も、数値で明らかな成果を出しています。ずばり、ダイバーシティー推進と業績向上は、連動しているんでしょうか?

松本 正直それは分かりません。はっきり因果関係があるとは言えない。でもね、正しいことをやっとったら、たいがいうまくいきますよ。だから僕は「正しいことを正しくやりなさい」と言っているだけ。

―― 正しいこと、ですか?

松本 ダイバーシティーに関して言えば、女性を登用したり外国人を登用したり、障害の有無や年齢、宗教など関係なく人材を活かす。それが正しいと思うわけ。それをやってうまくいかないなら、よほどツキがないだけ。

 理屈で考えれば当たり前のことでしょう。「右手と左手があるけど、私は右手しか使わん」なんて人はいない。ゴルフのクラブを右手1本でうまいこと振れますか。普通は振れないでしょ。それと同じで、世の中の半分は男性で、半分は女性。両方活用しない手はないよね。総力戦で戦わないと勝てないですよ、今の時代。

 なおかつ、僕らの仕事、いや僕らに限らず、ほとんどの仕事はね、お客さんは女性が多い。何を買うかという決定権を握っているのは多くの場合、女性ですよ。女性の気持ちが分からんかったら手も足も出ないですよ。

男社会だけでやっていたら組織は強くなれない


―― 私にも子どもがいますが、子どものための買い物で何を選ぶかは、母親である私が決めますものね。

松本 スーパーに買い物に行くのはたいがい女性。8対2くらいの割合で女性が多い。ただ、これもいずれは5対5になっていきますよ。世の中はすべて「半々」ですよ。ただ、すぐにはならない。時間がかかるでしょう。ダイバーシティーだってね、時間がかかりますよ。

――やはり、時間がかかるのは仕方がないとお考えですか。

松本 皆が一斉に動くということはないですからね。「よーいどん!」と言われてすぐに立ち上がれる人とそうでない人がいる。

―― J&Jでも今のカルビーでも、松本会長のダイバーシティー推進に対して、社内からの反発はあったのですか?

松本 面と向かって反対する人はいませんよ。ただ、「面従腹背」はいます。表向きは従って、内心では抵抗しているというね。いつもそんなもんです。経済界を見てもそうでしょ。政府の施策を受けて、大企業の社長さんや会長さんが「ダイバーシティーやらないかん」と言っていますけど、面従腹背の人が半分以上ですよ。

―― 半分以上ですか…気が重くなりますね。

松本 たぶんそうだと思います。当たり前じゃないですか。男は男社会のほうが絶対に楽ですよ。男だけで、しかも気の合う者同士で集まってやっているほうが、そりゃ楽しい。でも、それをやっていたら組織は強くならない。会社はよくならない。

リスクを引き受けるトップの信念が会社を動かす


―― 考えや価値観が異なる存在を受け入れてこそ、発展があると。

松本 例えば、今議論されている集団的自衛権。あれも賛成もいれば反対もいる。今後、どのように具体的に動くのか、綱引き状態が続いて動かないのか、そら分かりません。しかし、ダイバーシティー推進に関してはね、これは絶対に動く。止められない。なんでかっていうと、それが正しいからですよ。

―― 先ほど、半分以上の経営者がダイバーシティーに対して「面従腹背」とおっしゃいましたが、抵抗感を覚えながらも、その必要性や重要性を認識している人は徐々に増えている気がします。

松本 実行になかなか移せないのはリスクが伴うからでしょう。「ダイバーシティーを進めたから業績が落ちた」となると経営者は責任を問われる。だから皆さん、やらないんですよ。私にとっての一番大きなリスクもそこなんです。だから結果にこだわる。「カルビーが社外から連れてきた会長さん、ダイバーシティー、ダイバーシティーと叫んでたから会社がダメになった」と言われたらあかんから。

―― 松本会長は業績というリスクを真正面から受け入れて、女性活用を推進していらっしゃるわけですね。

松本 ダイバーシティー推進の第一歩は、トップマネジメントの信念だと思います。先ほど、ダイバーシティー推進と業績向上に因果関係があるかどうかは分からないと言いましたけれど、私はきっと関係あると思っています。ダイバーシティーは成長のためのエンジン。やっていれば絶対によくなる。それを信じてやっています。

―― 今、各企業の人事は、ダイバーシティー推進のために様々な制度や環境整備に取り組んでいます。成功に導くには、まずトップ(社長や会長)がリスクを堂々と背負って覚悟し、業績にこだわること。その偉業にチャレンジしている1社が、カルビーなのだと痛感しました。