多文化共生なTOYAMA

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「医療通訳」外国人も安心 派遣制度やIT活用 専門性高め、対話しやすく

2012-09-07 10:26:17 | 多文化共生
(以下、日本経済新聞から転載)
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「医療通訳」外国人も安心 派遣制度やIT活用 専門性高め、対話しやすく
2012/9/6付

 日本語を理解できない外国人の患者に医師らの言葉を伝える「医療通訳」の取り組みが広がっている。通訳を独自に養成する病院があるほか、自治体などが地域の医療機関に通訳を派遣する制度も始まっている。日本で暮らす外国人が200万人を超えるなか、医師との意思疎通を助け、安心して医療を受けられる環境を整えるのが狙いだ。

ブラジル人患者の診察に同席し、内容を通訳する南谷かおり医師(左から2人目)=大阪府泉佐野市のりんくう総合医療センター

 「娘さんの下痢はウイルス性の腸炎によるものですね。1~2週間で治りますよ」。8月下旬、りんくう総合医療センター(大阪府泉佐野市)。生後7カ月の次女、アンナちゃんを抱くブラジル人のマリザ・キユナさん(27)に男性小児科医が語りかけると、傍らに座る同センターの南谷かおり医師(47)がポルトガル語で通訳した。

支払いまでお供

 「原因がやっと分かった」。キユナさんはほっとした様子。仕事の都合で約2年前に来日し、簡単な日本語しか分からない。数日前、下痢をしたアンナちゃんを同府岸和田市の自宅近くの病院に連れていったが、医師が話すのは日本語と英語のみ。「雰囲気で深刻ではないと分かった」が、原因が分からず下痢も続いたため、不安になって同センターを訪れた。

 同センターは英語(月~木曜日)、中国語(火曜日)、スペイン語(火・木曜日)、ポルトガル語(同)を無料で通訳。事前予約をするか当日に申し出れば、待機している通訳が受け付けから支払いまで付き添う。

 通訳を始めたのは2006年。近くの関西国際空港から外国人が搬送される例が増えたのを機に、ブラジルで医師免許をとった南谷医師を中心に、10人未満の体制でスタート。現在は先輩とペアで働く研修生を含め、約60人の通訳が登録している。主婦や会社員、看護師らが空いた時間に活動し、11年度の通訳件数は約730件と、06年度の約8倍に増えた。

 南谷医師は「医師の言葉は専門的で曖昧なことが多く、現場での研修が大切」と語る。以前、「肝機能を示す数値が上がった(症状が悪化している)」というのを、「症状が改善している」と研修生が誤って訳し、その場で注意したこともあるという。

 互いの技術向上を目指し、昨夏には同センターの通訳などが一般社団法人「りんくう国際医療通訳翻訳協会(IMEDIATA=イメディアータ)」を設立。まずは今年10月から来年3月まで医療通訳のワークショップを開催する予定で、参加者を募っている。

自治体が主導

 自治体主導の取り組みも広がっている。外国人労働者が東京都に次いで多い愛知県は4月、医療通訳の派遣を開始。電話による24時間対応の通訳や紹介状などの翻訳も受け付けている。7月末までに計227件の利用があったという。

 派遣は現在、県内59の病院・診療所で利用できる。対応言語は英語、中国語、スペイン語、ポルトガル語で、県が認定した約80人が活動する。電話ではこの4カ国語に加え、ハングルとタガログ語が使える。料金は派遣が2時間3千円からで、医療機関と患者が折半する仕組みだ。

 厚生労働省によると、自動車関連産業が集積する愛知県の外国人労働者数は約8万4千人(11年10月末時点)。県の担当者は「ポルトガル語を中心に潜在的なニーズは高い。今後、認定通訳、医療機関ともに増やしたい」と話す。

 10年前から医療通訳を派遣している神奈川県では、ほぼ右肩上がりで利用件数が伸びている。

 県と連携して派遣に取り組む特定非営利活動法人(NPO法人)の「多言語社会リソースかながわ(MICかながわ)」(横浜市神奈川区)によると、11年度の派遣は3676件で、03年度の3.4倍に上る。派遣先の医療機関は当初の6から35まで拡大。対応言語も5から10に増やした。

 同法人事務局の高山喜良さん(67)は「患者と医師の間で円滑な意思疎通を図るため、通訳の医療知識の習得を重視している」と話し、年3回の講習会参加を義務化。感染症や在宅医療など、毎回異なるテーマで医師らに講義を依頼し、専門性を高めている。

 IT(情報技術)機器を使い、遠隔での通訳を導入する動きも出てきた。NPO法人「多文化共生センターきょうと」(京都市下京区)は和歌山大と組み、多機能携帯端末「iPad(アイパッド)」などを使ってテレビ電話のように通訳するシステム「You tran(ユートラン)」を開発した。

 病院と通訳がそれぞれ1台ずつ端末を置き、無線LANで接続。端末内蔵のカメラで互いの映像を見ながら会話をする。

 本格的に使ったのは今年6月。難病の治療で来日した患者はスペイン語しか分からない。治療にあたる病院に高度な通訳がおらず、同法人からも距離があったため、ユートランを使った。「身ぶり手ぶりが見えて、電話よりも正確な通訳ができる」と同法人の重野亜久里さん(39)。遠隔通訳は熟練の技術が必要だが、研修で順次人材を養成する計画だ。

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客観診断、研究広がる 脳や血液を検査

 日本で暮らす外国人は長期的には増加傾向にあり、2011年末の登録者数は約208万人と、00年から約40万人増えた。日本の医療機関で健康診断や最先端医療を受けるために来日する「医療ツーリズム」も広がっており、医療通訳の必要性は今後、高まることが予想される。

 一方で医療通訳は人命や個人情報に深く関わる面もあり「プロを育成する態勢づくりが急務」との声も上がる。現在、医療通訳の資格はなく、地域団体などが独自に育成して認定。仕事や家事の合間を利用して活動する人が多い。

 全国の関係者が09年に立ち上げた「医療通訳士協議会」(大阪府吹田市)は「プロを育成するには認定制度などで身分を保証し、適切な報酬を与えることが必要」と訴え、今年中にも制度のあり方について本格的な議論に入る。

 経済産業省も医療ツーリズムなどを背景に、9月中にも専門家を集めて議論を始める見通し。ただ「資格の枠が硬直し、現場と乖離(かいり)してしまっては本末転倒」(MICかながわ事務局の高山喜良さん)との指摘もあり、これまでの各地の取り組みを生かした柔軟な制度づくりが求められている。

(佐野敦子、黒滝啓介)

発達・学習障害もここでは立派なビジネス

2012-09-07 10:25:39 | ダイバーシティ
(以下、日経ビジネスオンライン新聞から転載)
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発達・学習障害もここでは立派なビジネス
多様性を活用するシリコンバレーのど根性
海部 美知  【プロフィール】
2012年9月7日(金)

 8月半ば、ある殺人事件の判決が大阪地裁であった。30年間引きこもっていた男性が、彼の世話をしていた姉を殺害したという悲しい事件である。この男性には、アスペルガー症候群という発達障害があった。裁判員による判決は、求刑よりも長い20年の懲役となったが、その理由は平たく言えば「刑務所以外に受け皿がないから」だ。

 私は学習障害や発達障害の専門家ではないが、当事者の「親」として、その対策に10年近く走り回ってきた。そのため、このニュースを聞いて考えこんでしまった。確かに、「発達障害は犯罪予備軍」といったレッテルを張られてはいやだと思うし、支援団体は「差別である」と憤りを表明している。しかし私としてはそう単純に怒れない。ほかに受け皿となりそうな設備はあるもののまだ不十分なようで、家族の苦労や憤りもまた身にしみてよく分かるからだ。

 アスペルガー、発達障害、学習障害などの定義はほかの情報ソースに譲ることとして、ここではそういった「特別支援が必要な人たち」のシリコンバレーでの現状を少々語ってみたい。いつものテクノロジー話とはだいぶ違うように見えるが、実はイノベーションを生みだすこの地の「精神」と同じ根っこを持っていると私には思えるのだ。
「特別支援」はステータスシンボル

 シリコンバレーに、自閉症の人たちのためのスマートフォン・アプリ「Voice4U」を開発・販売しているベンチャー、スペクトラム・ビジョンズという会社がある。その創業者の久保由美さんに誘われて、我が家近くの自閉症専門私立学校のファンドレイズ・イベントに参加したことがある。


米医療用品メーカーのジョンソン・エンド・ジョンソンによる自閉症支援プログラム「Pathway」の紹介動画

 「親御さんはすごいお金持ちが多い」とは聞いていたが、聞きしに勝った。ネクタイ/ワンピースの盛装でのディナーの後、オークションで何千ドルという高額品が次々と落札され、校庭の新しい設備を作るための資金があっという間に集まってしまう様子に私は驚がくした。

 このコラムの前回(ヤフーの新CEOが大役と出産を両立できるワケ)で、ヤフーCEO(最高経営責任者)のマリッサ・メイヤーがロングドレスで社交界イベントに登場する様子をご紹介したが、当地ではこうしたセレブが集まるイベントが、何らかの「フィランソロピー(社会貢献活動)」であることが多い。オペラ・美術館のような各種文化活動から病院や障害者施設などへの支援まで、フィランソロピーはすなわち「社交界」であり、ステータスシンボルである。

 そうした流れの裾野に、この自閉症学校は位置する。我が家近所には、自閉症だけでなく、ディスレクシア(読字障害)、ADD/ADHD、アスペルガーなど、特別なケアが必要な子供たち専門の私立学校がいくつもある。それらは、困った子供たちを閉じ込めておく日陰の存在でも、ギリギリの予算と安い給料でやりくりする貧乏施設でもない。

 こうした特別支援私立学校は、学費が高い。自腹で払えなければ、学区と交渉して補助金を出してもらうこともあるが、そのためには親が資料をきちんと揃えたり、場合によっては弁護士を雇ったりする必要があり、少なくともそれができるほどの意欲と頭脳がないといけない。

 近所のディスレクシア専門学校には、ディスレクシアを克服した地元有名人がよく講演にやってくる。元サンフランシスコ市長で現カリフォルニア州副知事のガビン・ニューサム、シュワブ証券創立者のチャールズ・シュワブ、シスコ・システムズCEOのジョン・チェンバースなどで、こうした講演活動も、彼らにとってフィランソロピーの一環で、生徒や親もこうしたセレブに会うことができる。

 誤解を恐れずに言えば、「自分の子が特別支援学校に行っている」ことすら、ある意味で「ステータスシンボル」なのだ。教育熱心で裕福な家庭の証左だからだ。これらの人々は、自分の子供に良い先生をつけてもらうためなら寄付もどんどんする。予算カットで教師のレイオフが続く中、特別支援教師の需要は特に強い。

 少々大げさにいえば、奥様方の間で「アタクシもうちの子を特別支援学校に行かせておりますのよ、おほほ」的な会話が交わされているのだ。
シリコンバレーでは障害対策も「カネ次第」

 特別支援に関しては、公的には連邦レベルで「IEP(Individualized Education Program)」という仕組みが存在する。学校の校長・担任・専門家と親が集まって対策を話し合う仕組みで、種々のテストで評価を行ない、学区が認めるとその子はIEPの対象となる。

 そこで、学校の中で特別支援クラスに全面的あるいは部分的に行ったり、スピーチセラピストに週何時間か通ったり、普通クラスの中で補助をつけたり、などの対策が決まり、実行される。

 連邦レベルの仕組みとはいえ、運用は各学区が行なっており、コストは学区が払うので、学区によっては適用に高いハードルを設け、なるべくIEPをやらせないところもある。専門家のレベルもまちまちなので、熱心な家庭では、より良いサポートをしている学区に転居ということもある。

 そして当然ながら、手厚い学区とはすなわち、ある程度お金持ちが多く住み、住民税収入に余裕のある地域ということになる。公立で手厚いサポートを得るのも「カネ次第」というのが現実だ。

 学校の場だけではない。民間のセラピーや塾も花ざかりだ。知的遅滞がなく一見普通に見える軽度の障害だが、それでも学校での集団生活や学習に問題が出るという子供は多い。その場合、こうした民間サービスを利用する。これらも相当な高額サービスで、場合によっては公的補助の対象になるが、普通は家庭の負担だ。

 例えば、リンダムード・ベルは、独自のカリキュラムで、読み書きに問題のある子の学習サポートをマンツーマンで行う塾の全米チェーンだ。その待合室は、明るいブルーの壁に白い藤の家具と鮮やかな花が並び、まるで海辺の高級リゾートのようだ。子供への直接のサポートのほか、学校の先生や学区関係者へのワークショップやリサーチ・サポートも行なっている。

 最初から全員に行き渡ることにこだわると何も始まらない。まずは始めることが大事で、ニーズがあるなら特別支援教育であっても「カネ次第」で無問題。アイディアが富を生み、イノベーションがメシのタネである当地らしい考え方だ。

 自閉症・アスペルガーもADD/ADHDもディスレクシアも、脳の機能障害であり治ることはない。こうした専門の学校や塾でも、これらの障害を「治す」わけではない。体の機能の一部が失われた時、ほかの機能で補う訓練するリハビリテーションのように、ほかの部分の力を活用して自立できるように訓練する。できないことの克服だけでなく、得意なことを見つけて伸ばし、それを職業につなげることも、自立するための大事なポイントだ。

 発達障害・学習障害そのものというより、それによって自信を持てなかったり、いじめられたり、逆にフラストレーションがたまって爆発したり、そういった「二次障害」が問題を大きくしてしまうこともある。それを防止するため、状況に応じてコミュニケーションや感情をコントロールする訓練も重要だ。

 直接的に原因をアタックするセラピーも試されている。例えば、字が読めない、書けない症状は、必ずしもディスレクシアではなく、「目の機能」が問題であることもある。いわゆる視力とは違う、両目や目+手のコーディネーションなど、目の機能を司る脳側の問題だ。これは、ビジョンセラピーと呼ばれる目の機能訓練で相当に改善される。
対策も見通しもある時代になった

 一方、聴覚を司る脳部分に問題があると、聴覚過敏により人のざわめきや楽器の音など、特定の音がガマンできないほどつらくて、教室から逃げたり隅に引きこもったり、耳がシャットダウンした状態になったりという問題が起こることがある。この場合は、苦手な音の周波数をカットした特別な音楽を繰り返し聞くセラピーに効果がある。

 ADDやアスペルガーでは、バイオフィードバック訓練も行われている。最初に脳波検査で脳のどの部分の活動が弱いかを見つけだし、そこに計測装置を設置した状態で、パソコンでアニメを見る。脳の活動が閾値を超えて上下する(興奮する、または白昼夢状態になる)とアニメが止まり、深呼吸をして気持ちを安定させるとまた動き出す。

 頭につけて気分により耳が上下する「猫耳」おもちゃと同じ原理の「脳波の可視化」と、自分の意思で脳波をコントロールする「瞑想」の原理を組み合わせたもので、座禅してときどきお坊様にバシッとたたいていただくことの子供版と考えればいい。これにより興奮状態を自分で意識的にコントロールしたり、他人の話についていけるだけの注意力を維持したりできるようになる。

 このほかにもまだいろいろある。いずれも医療的な「治療」ではなく、教育の範疇に入る「訓練」で、完全に治るわけではなく、また効果が出るのに時間がかかることも多い。医師やセラピストの指導を受けながら、家庭でも長い期間にわたって続ける必要があり、親も子も忍耐と努力が必要だ。そして、例によってお高い。

 そしてこうした対策も、まだまだ行き渡っている状態ではない。学校の特別支援の先生や小児科の医師でも、知らないものや判断のつかないものも多い。異なる問題が複合していることもあるし、効果的な対策がまだ見つからない障害もある。頑張ってやってみても効果がないかもしれない。

 それでも、具体的に「問題」が何であるかがわかり、それがある程度「改善」できる方法があるならば、問題を隠すよりも解明するほうがトクだ。たとえお高くても、お金で問題が解決できるなら何とかやりようがある。ただひたすら、問題児を追い出したり隔離したりするしか方法がない、という時代は既に終わっている。

 久保由美さんは、冒頭のアスペルガーの人には、早めに「アンガーマネジメント」をすべきだった、と考えている。「アスペルガー自体は治すことができなくても、怒りの感情の爆発は、専門家によるセラピーセッションで自己制御できるようになるはずだ」と言う。

スペクトラム・ビジョンズ創業者の久保由美さん。手に持っているのは、同社のiPhone/iPadアプリ「Voice4U」で、言語表現が苦手な人が、絵を選んで言いたいことを表現できる。Android版は、2011年冬の日経BP主催「Android Application Award」大賞を受賞した。日本語と英語に対応している

 発達障害であってもなくても、怒りが暴走する傾向の大人やティーンに対し、怒りの感情を自分で制御するためのカウンセリングを行うことは多い。例えば傷害事件の犯人の場合、通常の刑罰のほか、アンガーマネジメントのセッションを受講することを義務付けられることがある。学校で問題を起こすティーンも、同様にアンガーマネジメントのクラスにぶちこまれる。

 「学校のいじめ事件でも、加害者にアンガーマネジメントのセッションを受けさせて、自分で抑えられるようにしてあげないといけません。いじめっ子は怒ると怖いから、周囲も萎縮して怒らせないように、腫れ物に触るように扱いがちですが、それはかえって本人のためになりません。」(久保さん)
「アンガーマネジメント」とシリコンバレーの多様性

 発達障害でも学習障害でも、このようなコストをかけて対策をしても、社会の「多様性」の一つとして扱う、という考え方が当地では強い。

 サンフランシスコ近郊は、たとえアメリカ中から嫌われようとも、人種差別やゲイ差別との戦いで常に先頭に立ち、外国人を積極的に受け入れてきた。「人がより多様である」ということが、自らの強みであることを本能的に知っている。

 偉大な発明家や起業家には変な人が多いし、アスペルガーの過集中傾向はプログラマーに向いている。「発達障害・学習障害」という多様性を、「許容」どころか積極的に「活用」しようというのが、この地のしたたかなど根性なのだ。

 みんな同じを是とする日本ではなかなか受け入れられない考え方かもしれないが、それでも具体的対策については、日本でも取り入れられるものがあると思う。詳細情報ご希望の方は、私のブログをご参照いただきたい。