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都市間競争が人材呼ぶ 東京のライバルは?

2011-05-16 11:31:05 | 多文化共生
(以下、日経ビジネスから転載)
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都市間競争が人材呼ぶ
東京のライバルは?
熊野 信一郎
中国都市間競争人材東京競争意識香港シンガポール

 偶然、香港に引っ越してきたばかりの日本人ビジネスマンに出会った。欧州系金融機関で資産運用を担当しているという。30代半ばの彼は複数の会社を渡り歩いてきた、いわゆるエリート金融マン。香港への転出を決めたのは、いずれは自分で資産運用会社を設立するためだ。曰く、「会社を起こすなら香港かシンガポール。負担が大きい日本はあり得ない」。

 海外企業がアジア本部の機能などを東京から上海や香港、シンガポールなどアジアのほかの都市に移転するケースが増えている。一方、上記のような個人レベルでの海外流出は目には見えず、実態も把握しにくい。これが積み重なれば、東京、ひいては日本経済にダメージとして効いてくる。

 人材流出がいかに起こりやすいかは今回の震災でも明らかになった。福島第1原子力発電所の事故後、日本から大量の外国人が海外へ逃げ出した。欧米の金融機関で働く多くのビジネスパーソンが目的地に選んだのが香港。日本に近いという理由もあるが、何よりも受け入れ側の対応が万全だった。

 香港当局は震災から1週間も経たないうちに動いた。通常は申請から発行まで1カ月前後は必要な就労ビザを、日本からの退避者に限り最短2日間で出す特別措置を実施。金融当局もこれに連携し、迅速にビジネスを開始できるよう、短期間で金融免許を与える特例を認めた。

 この制度が適用された人数は、家族含め270人以上にもなるという。その大半が高収入を得ている管理層だ。税収アップはもちろん、不動産や学校など関連産業への波及効果も見込める。

市民にも根づく競争意識



 日本から見れば“火事場泥棒”に見えなくもないが、日頃から激しい都市間競争にさらされている香港だからこその素早い行動だった。

 香港にはシンガポールという永遠のライバルがいる。アジアの金融ハブの地位だけではなく、観光や港湾、空港、国際イベントの開催など、あらゆる分野で競合する。法人税や所得税の低さや規制の少なさといったビジネス環境だけでなく、医療水準や教育、治安といった生活インフラでも切磋琢磨している。そこには、人材が都市の競争力を決める、という強い意識がある。

 広東省に隣接する香港は大気汚染がひどく、生活環境面で弱点がある。実際、大気汚染を理由に香港からシンガポールにアジア部門のトップ層を移動させた企業もある。一方で香港は人民元関連のオフショア市場としての機能を強化し、「中国の一部」であることの優位性を固めようとしている。

 香港で感じるのは、多くの市民がこうした都市間競争を意識している点だ。都市の競争力が生活水準に直結することを理解し、それが政策にも反映されている。ライバルの機先を制し、ライバルに後れを取ればすぐに追随しようとする。人口700万人の「都市国家」だからこその現象だろう。

 翻って日本。東京のライバルは果たしてどこだろうか。東京都が実施したアンケートでは、上海がトップにくる。しかし年代や性別、職業別に見ると北京やソウル、ニューヨークが挙がる。

 一極集中が進んだ東京は利便性が高く、魅力的な都市である。しかし、多くの顔を持ちすぎているため戦うべき相手がはっきりせず、政治も都民も競争意識を持ちにくい。

 議論になっている首都機能の移転はリスクヘッジのためだけでなく、機能を分散させることでライバルを見えやすくする意味もあるのではないか。

日経ビジネス 2011年5月16日号94ページより