(以下、毎日新聞から転載)
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乳幼児:「消えた子ども」355人 住民登録地に不在、健診受けず--74都市調査
◇孤立で虐待のリスク
住民票を移さないまま一家で転居するなどし、行政機関が安否や所在を確認できない乳幼児(0~3歳)が、全国の主要74都市のうち、35都市で延べ355人に上っていることが、毎日新聞の全国調査で分かった。住民登録地に住んでおらず、乳幼児健診も受診していない「消えた子ども」の全国規模の人数が明らかになるのは初めて。専門家は「住民票を残して転居する家庭は行政サービスを理解していないケースが多く、貧困や孤立による児童虐待のリスクが高い」と指摘する。子どもの“発見”に向け、早急な手立てが求められそうだ。
毎日新聞は、東京23区、道府県庁所在地、政令市に対して先月、アンケートを実施した。健診に来なかったため、自治体職員が家庭訪問するなどした結果、住民登録地に住んでいなかった子どもについて、データがある直近年度(09年度か08年度)の人数を尋ねた。
所在不明が判明した子どもの人数は、浜松市40人▽津市24人▽京都、神戸市21人▽さいたま市、佐賀市20人▽福岡市16人--などで、合計は35都市で355人。年度内に複数回の健診を受診しなかった子どもは重複してカウントされている。
また、26都市は「統計がない」と回答。13都市は所在不明のケースはなかった。
自治体の対応にも限界がある。アンケートでは、「オートロックマンションや表札がない家が増えており、転居しているかどうかも把握できない」(仙台市)、「自治体には捜索権限がない」(奈良市)などの声が上がった。また、日系人労働者が多く住む都市は「外国人登録を残したまま、帰国するケースが多い」(津市)という特殊事情もあった。【平野光芳、遠藤孝康、稲生陽】
◇社会と接点なく悲劇
◇沖縄・乳児死亡、苦悩する行政
「消えた子ども」は虐待リスクが高いとされる。社会との接点がない乳幼児は周囲からも見逃されがちだ。「どうすれば子どもを救えるのか」。行政担当者は苦悩の表情を浮かべる。
堺市では、乳幼児健診に来ない親子は、保育園や幼稚園に照会したり、何度も家庭訪問する。電気やガスのメーター、ポストの郵便物がたまっていないかなど、手がかりを探すが、「オートロックの高層マンションなどでは、外からの確認も難しく、なかなか実態をつかめない」と言う。
プライバシーとの兼ね合いで、手を尽くせない葛藤(かっとう)もある。「表札がなければ、家庭訪問した連絡票の投函(とうかん)は控えている」(松山市)、「地域の民生委員等への問い合わせは難しい」(静岡市)などの回答があった。
沖縄市では、今年6月1日、長男、我謝龍河(がじゃりゅうが)ちゃん(当時3カ月)を布団に投げ付け死亡させたとして、父親の我謝進一被告(22)が、沖縄署に傷害致死容疑で逮捕された=同罪で起訴。我謝被告は今年3月中旬、内縁の妻と龍河ちゃんの3人で沖縄県宜野湾市から沖縄市に転居したが、住民登録は宜野湾市のままだった。
親族の話では、一家は生活苦に陥っていた。新車のローンが100万円。勤務先の介護施設は就職したばかりで給料も少ない。内縁の妻がスナックで働く夜は、我謝被告が子守をした。逮捕後、「経済的な苦しさからストレスがたまり、龍河に申し訳ないことをした」と言い、龍河ちゃんの肋骨(ろっこつ)の骨折痕も「以前に踏みつけた」と供述したという。
沖縄市こども家庭課の大山朝彦課長は「家族の存在がつかめてさえいれば、経済的支援もできた」と頭を抱える。事件後、児童相談所、保育園など関係機関と対策を話し合っている。「不動産の入居時に住民登録を義務付けては」「自治会で転居者を訪問すればいい」。意見は出るが妙案は見つからないという。【遠藤孝康】
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■ことば
◇乳幼児健診
市区町村が母子保健法に基づき、子どもの身体計測や診察、歯科指導、発育相談などを行う。同法上は、(1)1歳6カ月~2歳(2)3~4歳の2回だが、多くの自治体が生後3カ月ごろから上乗せで実施している。方法も自治体で異なり、保健所での集団実施や医療機関への個別委託などがある。外国人登録している家庭の子どもも受診できる。子どもに傷やあざがないかなど、虐待を受けていないかチェックする機会にもなる。