瀬崎祐の本棚

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掌詩集「机の傷、庭の雫」 岬多可子 (2024/01) 私家版

2024-01-16 22:21:27 | 詩集
毎年の新年に届く葉書大、16頁の掌詩集。
今号が12冊目となる。160部だけの制作で、きれいな色の3本の毛糸で止められている。15行から35行の行分け詩7編を収める。

「冬」は3行×4連の作品。何も塗られていない廊下は「割れるほどに乾いている」のだ。うつろっていく陽射しがこれまでの年月の影を作っているのだろう。足元から冷たさが這い上がってくるような廊下の光景の、最終連は、

   珈琲牛乳の空き瓶がひとつ
   時の 細い枝が
   赤錆色に 溺れている

ありふれた具体的な事物が置かれることによって、その場所は一気に象徴的な高みへと変貌している。

「針の巣」。新雪で浄めた青松葉を蒸して作り上げた巣に、赤い実、黒い実を籠もらせている。これは冬を過ごすための何かの儀式のようなものなのか、それとも話者がおこなっている独自の慣例なのか。所作には迷いや誘いもあり、背後から覗きこまれているような艶めかしさもあった。最終部分は、

   もう思いどおりにはさせない
   はやく家へ入れ
   そう言われたのを

   熱い松の針も
   赤黒の実も
   いっしょに 噛んで噛んで
   呑みこめない

どの作品でも、静かに広がっていた言葉が次第に読み手の方にゆっくりと迫ってくる。何でもないようなそれぞれの言葉が、隣の言葉と結ばれることによって放つイメージの密度が濃くなるのだ。

嬉しかったのは、拙個人誌「風都市」に寄稿してもらった「黒葡萄の間」が収載されていたこと。あらためて読み直しても好い作品だった。
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