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詩集「サラフィータ」 前野りりえ (2023/06) 書肆侃侃房

2024-01-19 22:23:35 | 詩集
第1詩集。24編を収めて125頁。作者は太宰府を舞台にした絵本や、太宰府のガイドブックも執筆している。

Ⅰ章サラフィータには、一月から十二月までのサラフィータという12編の作品が並んでいる。この“サラフィータ”という語は作者の造語で、居住地である太宰府のアナグラムのようなものとのこと。しかし作品に描かれた時、その地は幻想のものとなっている。

「四月のサラフィータ」では、「風が吹く丘に立つと/緑の精霊たちが/口の中に飛び込んでくる」のだ。四月ともなれば、目に入る世界は急にひろがり、その先に続くものまで予感させるのだろう。

   サラフィータ
   あなたと風に乗り
   千年の時を越えて生きてきた大樹を目指し
   折り重なる巨石を 隧道をくぐり抜ける

サラフィータは地名であると同時に、そこに堆積したこれまでの事象の総称でもあり、これからめぐってくるものへの名付けでもあるのだろう。最終部分では、永遠の再生を繰り返すサラフィータは「その緑の吐息を/野に山に/一瞬の時を生きるわたしに吹きかける」と詩っている。

Ⅱ章の収められた「水男」は幻想譚。話者は海の中で生まれた水男(みずお)と出会う。彼は海底の太古の遺跡を見て、波に揺られて成長してきたのだ。

   わたしを抱きしめる水男の
   小さな水掻きのついた長い指
   漂う海の香りに
   わたしは まどろむ

水男はこれからの人類が出会うものを象徴しているのかもしれない。その試みがよかっただけに、話者にとっての彼の存在の意味が曖昧になってしまっていたのはいささか残念であった。
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