瀬崎祐の本棚

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詩誌「Aa」 11号 (2021/03)

2021-04-11 20:57:12 | ローマ字で始まる詩誌
 久しぶりに発行されたのではないだろうか。しかし8人のメンバーの作品は大変に充実している。 

 タケイ・リエは3編を載せているが、その中の「片思い」。あなたに語りかける言葉は柔らかくうねる。「待ちに待った土曜日の夜は/分裂するほど念仏しよう」意味は不明なのだが、”分裂”と”念仏”がなんとなくリフレインのように響いて印象的である。

   待ちに待った日曜日の朝です
   ひとりでフルーツパーラーを訪ねる
   喫茶店の入口には
   だいたい不満が溜まっている
   そのほとんどは
   文字にあらわすと非常な感じがするが
   定食屋で見かけることもある

 片思いであるのだから、発せられた言葉は何の見返りも求めてはいないのだろう。ただ話者の中で豊かに膨らみ、それによって話者を支えていくのだろう。

 高塚謙太郎「花へ」。この作品もあなたへの恋歌か。詩行には浮かれ立つようなリズムがあり、作品全体が弾んでいる。「窓は/のめる」、あるいは「かゆい初夏」など意味としては捉えにくい独得の表現もあるのだが、そんなものは軽快に跳びこえて読ませてしまう力も持っている。

   きれいな緑
   こうしてお互い手仕事に沈んでいく
   わたしが語るのは
   花の名まえを聞いていった
   一枚わたし
   ひらひらとぬれている
   恋人よ

 萩野なつみ「トワル」。「捻れながら泣いた/泣きながら運んだ」と始まる2章から成る作品。自分の存在はいつも仮の姿で「浅い春へと解体され」てしまうのだ。

   はざまにしか ほんとう は無く
   無釉の音符を散らして
   鳴き交わす爪の
   かそけき みちすじ

 確かなものへの手がかりを必死にまさぐっているようだ。最終連は「生き延びた手で/ひとしれず転調しながら/かなしそうに/わらう」。仮縫いの生地をかけられ、自らはいつまでも目的地にたどり着くことのないトワルが切ない。
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