瀬崎祐の本棚

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詩誌「ハルハトラム」 3号 (2021/08) 東京

2021-07-31 10:31:38 | 「は行」で始まる詩誌
ある合評会の有志が集まって作られた詩誌で、同人は11人。40頁。

水嶋きょうこは4編を発表しているが、いずれも8行から9行の切り詰められた言葉で構築されている。描かれる世界はひとつの情景を切り取ったものなのだが、その描かれた時間の前後に広がっているはずの世界を確かに内包している。「共生」は「水の音が止まらない」と始まる。庭のフェンスにはつる薔薇が伸び、後半は、

   どこかで朽ちたひとつの命を枝先に重ね
   次の生へと貪欲に
   巻きつく先を求めているのか
   水の音は激しくなる
   隣家の窓のカーテンが揺れた

最後に話者の視線が横にずれてすこし遠くに向けられている。作品の物語もその終わったところから遠くへ拡がっていくようだ。

「この森」小川三郎。
「森が深いね。/山々が/ずっとずっと向こうまで/続いているね。」と、話しかける口調で作品が続く。しかし、いったいこの森は何なのだろうか。

   森の
   陽がささない暗がりに
   私たちは行こうかね。
   そこで死ぬまで
   暮らそうかね。

その親しげな語りかけが、読み方によっては切なくもとれるし、ひょっとした拍子には不気味な恐ろしさも感じさせる。ついに、「霧はどんどん深くなるね。/森も木々も/一緒になって/どんどんどんどん/深くなるね。」と終わっていく。もう、書くべき事柄すらも深い森に閉ざされて見えなくなってしまったようだ。

「耳を澄ます」北爪満喜。
夢の中で私はお寺の中の部屋に住んでいるようだ。そこにはだいぶ前に見送った義母がいつもの姿でいる。そして大きなピアノが置いてある。お寺の中なのだからそんなことは不思議でも何でもないと、私は納得している。しかし訝しいのは、なぜ義母とピアノがあらわれたのか。

   求めればできたことなのに取り返しがつかない
   心は深く繋がっていたのに 一度も
   奏でるピアノをちゃんと聞いたことがなかった
   私は何をしてたのかと何てばかなんだろうと

作者の中にはうっすらとした後悔があったのだろう。優しい気持ちが夢の世界を越えて伝わってくる。
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1 コメント

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Unknown (北爪満喜)
2021-08-17 16:29:44
瀬崎祐様  この度はハルハトラム3号を丁寧にお読みくださって、ほんとうにありがとうございました!
春に出す予定でしたが私が急病で入院したので夏になりました。皆さんが協力してくれたので、出すことができました。お読み頂き感謝致します。
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