瀬崎祐の本棚

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詩誌「ファントム」 5号 (2021/06) 兵庫

2021-06-02 22:28:49 | 「は行」で始まる詩誌
ゲスト2人を迎えて9人の作品が載っている。77頁。

「わたし」為平澪。
相反するものが拮抗しながら一人の人は成り立っているのだろう。その危うい拮抗を視覚化したメージで作者はつきつけてくる。清い右手と汚い左手、見える右目と見えない左目、などなど。そして気にくわない方の自分は「切り捨ててしまえ」、「壊してしまえ」と叫ぶ。

   右手を切り捨て左目をくり抜き右足を失って
   バランスの定まらない視界を口にする頭に
   もはや涙は宿らない。

話者は辛い極限状態に自分を追い込んでいる。しかし、そうでもしなければ保つことの出来ない”わたし”だったのだろう。

「め」一色真理。
あらゆるところに「め」がある村の物語。煙突に書かれた紋章は「め」のようで「夜中になると瞬きをするという者もいる」し、井戸に飛び込んだ女の香典台帳の数字は「大きく見開いた無数の「め」に見えた」りするのだ。こうして村の人々は常に何者かの「め」によって観られている。大きく「め」と書いてあった医院の看板は今も立っているのだが、

   あれは背丈よりも高く生い茂った雑草の影に過ぎないと、嗤う者もいる。
   それでも月の無い夜には塀の破れ目から「め」が覗いている。見えないの
   に見えてしまう。

おそらくは、誰でもが「め」を背負っているのだろう。そして怖ろしいのは、自分の「め」と他人の「め」の境界が不明になっていくことではないだろうか。

一色真理「傾いた家」は、園子温監督の「ヒミズ」の10頁に及ぶ映画評である。(私(瀬崎)は園監督作のなかでは「愛のむきだし」に次いで2番目に好きな作品である。)描きたいもののためには通常のリアリティ感などは無視しての世界を構築する園監督作であるが、そんな映像が担っている喩に踏み込んだ深い評となっていた。
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