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詩集「厨房に棲む異人たち」  中西弘貴  (2015/10)  編集工房ノア

2015-11-09 21:07:18 | 詩集
 第6詩集。61頁に24編を収める。
 作品のタイトルは、厨房にある料理器具などの名前になっている。その器具たちの形状と役割が巧みに捉えられる。
 たとえば「鍋」は、「くびれを持たない胴体と冠に戴く蓋/黙然と虚空に聴き耳を立てる把手一対」のものであると詩われる。そして調理に使われたあとは、
 
   どんな夕餉が用意しえたか
   ひとにぎりの磨きのずなをかかえ砂をかかえ
   身には覚えの汚れの形跡を
   まだ現れない新鮮へ丹念に転じていく
   明日になればまた魚を煮るのに
   わずかに寂寥の音を響かせて
   事の始末をつけていく

 たかが調理器具にここまでの大袈裟な表現を与える大真面目さが、この詩集の持ち味となっている。その結果、いつのまにか、調理器具は形而上的な意味を孕んだものに変容していくのいだ。
 しかし基本的な役割としては、いうまでもなく厨房は調理の場である。そこでおこなわれるのは、人間の生命を保つために動物や植物の生命を奪う場である。そのために使われる器具には、それぞれに思うところもあるわけだ。
 「樽」。樽は他の物を入れておく道具だが、そこには耐える時間もあるようだ。「蔵したものをはき出せ」ば軽くなり、楽になるぞと囁く声も聞こえるのだ。そんな樽は、

   自らの重量を傾けて
   横転し
   ゆっくり転がっていく
   日のとどかない
   暗い方へ

 斬新な発想と、対象に深く切り込んでいく思弁を味わう詩集だった。
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