瀬崎祐の本棚

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詩集「用意された食卓」  カニエ・ナハ  (2019/09)  私家版

2015-11-07 22:00:54 | 詩集
 B6版の軽快な装幀。85頁に25編を収める。
 「雪」。短い行換えによる呼吸が作品をあやつっている。それは軽やかさのようでもあるのだが、それ以上に、そこにあるのは焦りのように思えてくる。何かにせき立てられるように行が移っていく。ここには、秋から冬への移りのなかでの居心地の悪さのようなものがある。

   自分が存在しないので
   海のない、風の冷たい
   声、ただ一つの、
   私達を、
   まだらにしようとしている、
   その声に滞在することができなかった。

 「枷」は260行あまりの集中で最も長い作品。先に、何かにせき立てられているような呼吸と評したが、だからといって話者は陰鬱になっているわけではない。常にそこには信じている希望があるようなのだ。

   欠落していない
   多くのことを望んで
   最終的にあなたは数になり
   私もまた あなたと同じ
   どこでも重たい木、
   重たい水である

 モノローグはさらに続き、「たぶん、ここにもたらされることによって、/どこかの瞬間に行かなければならなかった」と言う。私が行くことができる場所はどこに待っているのだろうか。馬、あるいは魚。そんなものの存在の有り様が、私を少しは助けてくれるのだろうか。
 そして作品は「あの世からの/ゆっくりと身に着けてきた/最後の息を/まぶたの奥に/吐く」と終わっていく。おそらくは若いであろう作者の真剣な想念が、豊かなイメージとともに見事に展開されている。
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