瀬崎祐の本棚

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詩集「香る日」  上手宰  (2013/07)  ジャンクション・ハーベスト

2013-08-30 18:06:18 | 詩集
 第5詩集。108頁に24編を収める。
 清冽な抒情詩のたたずまいを見せる作品である。「フーガの技法」では「過ぎ去っていく時間の後ろ姿は美し」いとして、耳に届いては消えていく音楽のようにも感じている。しかし、

   親しんだ音楽は私に届いてから響くのではない
   すでに私の中に住みついた旋律が
   はるかな風の道を通って
   かなたで鳴らされた音を迎えにいくのだ

 美しいものは、その人の心の中にそれを求めて感じ取るものがなければ、気づかれないままに通り過ぎて行ってしまうのだろう。
 老いの自覚を詩った作品もある。吊革につかまって列車に乗っている「文庫本片手に」という作品。ふと気づくと列車は動いてはいなかったのだ。実は、

   電車は今も昔も動いてはいなかった
   時に 文庫本から目を上げると
   車窓の景色が流れ去っていくので
   自分がどこかに運ばれているような気がしただけだ

 歴史が窓の外を流れていったのであり、「私はそれを見るために/ここに立たされていたことに気付く」のだ。そして「動かない列車にも終着駅はあるのだろうか」と問いかけたりもするのだが、それはもはやどうでもいいことであり、私が降りるところが駅なのだと思うのである。それから私も歴史の中に溶け込んでいくのだろう。
これまでの生が精一杯のものであったから、これだけの美しい言葉で老いを語ることができるのだろう。
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