瀬崎祐の本棚

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詩集「永遠の思いやり」 万里小路譲 (2023/06) コールサック社

2023-05-20 14:55:17 | 詩集
334頁に、あとに述べるような268編の横書き詩を載せる。鈴木比佐雄の解説が付く。

万里小路は自分の個人誌「表象」に、チャールズ・シュルツ作のアメリカン・コミック「ピーナッツ」に材を取った作品を長く書き続けている。「ピーナッツ」はチャーリー・ブラウンとその飼い犬スヌーピー、そして彼らの仲間を登場人物にした4コマ漫画である。
万里小路の作品はすべて4行4連から成り、その形式は、2連目の4行に「ピーナッツ」の吹き出し部分にある英語の会話文を引用し、1,3,4連を付ける、というものである。英語部分は万里小路が訳しており、原文も作品下部に記されている。

同様の試みの作品108編は2015年に、詩集「はるかなる宇宙の片隅の風そよぐ大地での草野球」で発表されている。

「心配」の第2連に引用されているのは「眠れないの どうすればいい?」/「ただ横になって 心配するんだ/これまで起こったすべて/これから起こるすべてを」。このフレーズから万里小路は眠れない妹が兄に助言を求めるという場面を作りだしている。そして兄の助言を受けて、行きついたところは、

   一日の終わりに
   内省へと沈みこむとき
   配慮 関心 気遣い 心配
   他に何が?

万里小路は「ピーナッツ」でのメッセージを「一言で言い表せば「気楽に行こうよ」であろうか」としている。原作コミックの会話の奥には哲学的なものが何気なく孕んでいるのだが、確かに、そこで出す結論は、だからといってそんなに深刻に考えることはないよ、というものである。この設問の深遠さと結論のあっけなさからくる肩すかし感が何とも愉快である。
中には同じフレーズが二つの作品で引用されていたりもする。「どうして傘もささずに/歩いて学校に行くんですか」/「苦しむのが好きなの/苦痛はひとを成熟させるわ」というフレーズは、「苦難」および「成熟」で引用されている。同じフレーズから異なる感興が呼び覚まされるところが面白い。「苦難」の方の第4連は、

   だからであろうか
   わざわざ苦難を呼び込むのは
   しかし バディ
   苦難もまた成熟が必要なのでは

映画や音楽、あるいはある光景などを契機として生まれる作品は少なくない。しかし本詩集の作品は、コミックの中の台詞を契機として生まれたものとして、独自の位置にある。
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