瀬崎祐の本棚

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詩集「魔笛」 広瀬大志 (20147/10) 思潮社

2017-12-08 16:12:17 | 詩集
 109頁、26編を収める。
 私(瀬崎)が、この詩集の作品に描かれる世界に入り込むにはいささかの時間を要した。しかし、ひとたび入り込むと、そこにはこれまであまり馴染みのなかった、どことなく邪悪な雰囲気の漂う世界が展開されていた。「アヴァロンの/リンゴの匂い」が聞こえたり、「唇の見えない馬車」が疾駆したりするのだ。

 たとえば「幻糸」では、妖しげな女が登場する。女は「腰に巻いていた海図を解く」のだ。すると、滝には潜戸(くけど)があらわれ、「荒ぶる土の耳の気配」もしてくる。魔界のような情景で、人は「終わらない糸」に奏でられる存在となってしまう。

   羽根をたたんだ丸い陶器がふたたび飛び立つまで

   ねえいつまでも
   緑が震えている

 「ねえ」とやさしく語りかけられても、幻の糸に絡めとられてもう身動きもできなくなっているようだ。

 当然のことのように詩集のなかでは人造人間やゾンビが動き回ろうとする。この詩集は総体として押し寄せてくる。そのような詩集では、個々の作品を取りだして感想を書くことにどれほどの意味があるのか、疑問にも思うほどだ。
 そんな中での一編「ダガス到来」では、荒廃に向かう世界が描かれている。その状況に対峙しての独白は、抵抗と諦観、希望と絶望、それらが混沌としたものになっている。

   柔らかな棺桶の
   波打ち際に横たわり
   おれは
   あらゆるもの全てに鍵をかける
   川が流れていた
   最後の音(ダガス)が聞こえた

 この作品の次には「ダガス伝導」が置かれている。この”ダガス”という言葉の示すものはよく判らなかった。神話、あるいは伝承のような何かがありそうなのだが、それを利用して構築された異形の世界を彷徨った。
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