瀬崎祐の本棚

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詩集「アジュモニの家」 細田傳造 (2018/03) 思潮社

2018-04-04 23:15:34 | 詩集
 第5詩集。93頁に22編を収める。
 冒頭の「三軒家」でその強い視線に引きこまれてしまう。戦後間もない頃の情景で、お妾さんの家や”パンパン”と言われていた人の家と並んで我が家はあったのだ。男の人がばらばらに切断されていたり、おふくろがどぶろく密造で捕まったり。

   六十五年前の「三軒家」は忙しかった
   倒れそうになって今でも建っているけど
   とても静かだ 一一0歳くらいの年寄りが
   ひとりずつ住んでいるけれど
   永遠に死なない人たち(生霊の棲みかになった
   国際興業バスは「三軒家」で停まらない
   降りる人がもういない乗る人がもういない

 作者の出発点になった情景が描かれているわけだが、いろいろなどの人も必死に生活していたのだ。作者の強さはそこから生まれてきたのだろう。

「秋」は桐の木に登った話。すると話者は、欠伸をしながら起きてきた悪阻(つわり)の娘に梯子を外されて降りられなくなったのだ。仕方なく桐のひと葉になって落葉を待っている。どこかとぼけたような達観の味わいの作品。最終部分は、

   息がきれてしまったら
   黄色くなってひらひらと
   愚者の庭に落ちていきましょう
   幸吉は今、
   高い所にいます

 詩集タイトルにもなっている「アジュメニの家」では、何か悲劇が起きたようなのだ。死んでしまっている話者は、やはり死者であるアジュモニと再会している。自分の出自を問いなおしているような作品であった。

コメント
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