瀬崎祐の本棚

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詩集「羽曳野」  山田兼士  (2013/07)  澪標

2013-07-11 21:39:55 | 詩集
 還暦を迎えるのに合わせて出版された第3詩集(奥付けの発行日は著者の誕生日となっている。私事になるが私(瀬崎)と同じ誕生日であり、私も詩集を還暦の年の誕生日に発行した)。87頁に24編が収められている。
 芭蕉の句やボードレールの詩句を各行の頭に並べた作品、回文をタイトルにした作品(「さあラフマニノフ野にマフラアさ」)もあり、随所に遊び心も感じられる。
 「あぶないあぶない/もうちょっとで死ぬところだった」と始まる「キリン」は、急に意識が薄れて病院に搬送された作品。何の疾病かは不明だが、緊急手術もおこなわれたようだ。そんな事態に遭遇して、手術を明日に控えた窓の端からはキリンが見えるのだ。

   キリンにたずねてみると
   ただよう父の気配 母の気配 ついでに兄も
   キリンのまわりをただよいながら
   まだ来るんじゃないよ と ほほえんでいる。

 不安を見つめてくれている存在があり(作品「阿部野橋」を読むと、実際に病院近くの動物園に二匹のキリンがいたようだ)、さらに故人となっている肉親が励ましてくれている。誰もが感じることのできる普遍的な思いが伝わってくる。
 第3章「萩原朔太郎の詩碑」には、第1詩集「微光と煙」の作品にも通じるような、詩論から浮遊してきた著者独特の作品が収められている。

   書くときの私は呼んでいる。
   像は像を呼び観念は観念を呼ぶ
   それらのテクストを編んでいるのは私だ

   (略)

   書くときの私は呼んでいる あなたを
                      (「書くときの私は」より)
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