瀬崎祐の本棚

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詩集「この片隅の夕暮れに」  岩井昭  (2013/06)  なずき書房

2013-07-03 07:32:44 | 詩集
 第9詩集。67頁に16編を収める。ソフトカバーの装丁なのだが、本文部分は袋とじ状態になっていて、ペーパーナイフで開ける体裁になっている。
 この詩集の作品には他者はほとんど現れない。ただ自分の感覚が捉えたものだけが差し出されている。描かれる世界はそれこそ庭の片隅であり、そこの木々や草花、鳥、虫などが静かに何かを伝えてくる。巻頭の11行の短い作品「木というもの」では、木がどこかへ出かけてしまう。

   いっしゅんの目くばせだったが

   いまごろどんなかぜのいんぼうを
   たくらんでいるのか

   葉がそよぎ
   いつもの場所にあるにはあるが
   木というものはいなかった

 形だけは残っているのだが、木の中身のようなものを風が吹いてどこかへ持って行ってしまったのだろう。理屈では何も判らないのだが、感覚としては判るものがある。
 「静かないちにち」も庭の片隅の情景である。鳥のえさ場に落ちていた羽根、隣の工場のエアコン室外機からの風に揺れているイチジクとナンテン、そんな庭の片隅では「静かに昼間が揺れてい」るのだ。

   なつかしさを生きているのでしょうか
   生きる場所を間違えてしまいました
   雨や風を敵にまわしてしまいました

   (それでも 静かな夕暮れです

 主語もよくつかめないままに読んでいるのだが、それでも伝わってくるものがあって、それは、厳密な意味が伝わることなんかどうでもいいやといった心地よさでもある。
コメント
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