瀬崎祐の本棚

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詩集「微風計」  平井君代  (2013/04)  私家版

2013-07-19 17:57:43 | 詩集
 第3詩集。83頁に、20行から30行の見開き頁で収まる長さの作品37編を収める。
 生活の周りに見かける事柄がていねいに拾い上げられ、そこに優しい感情が生まれてきている。たとえば、部屋の絨毯に小さな光が射し込んでいる情景を詩った「冬日」は、

   風が動くたび
   暗号文字が雲のように浮かんでくる
   あなたから ですね

   こんな昔ばなし日和には
   あちらに住む人が
   不意にやってきたりするのです

 また、「時の歩幅」は、反対車線の車の中やしまりかけた地下鉄のドア付近、旅行先の空港ですれ違う人に、見知っていた人たち、死者たちの面影を見てしまう作品。その面影の人たちは不意に大股で近づいてきて、次の瞬間には去ってしまうのだ。

   「だるまさんがころんだ」
   早口で数えて振り返れば
   あのとき止まったままの人たちが
   すぐそこにいてくれるだろうか

 誰でもが日常生活の中でふっと出会うような情景である。詩集のタイトルのように、その情景から生じる気持ちの中を吹き抜ける微かな風を感じ取っている。それを充分に抑制された言葉で書きとめている。
 今は居ない人もいるので哀しみも当然のようにあるのだが、その気持ちにも抗うことなく受け入れようとしている。とても気持ちが穏やかになってくる作品ばかりであった。
コメント
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