瀬崎祐の本棚

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詩集「未来がだんだん」  竹内美智代  (2012/10)  砂子屋書房

2012-10-23 20:49:01 | 詩集
 第5詩集。107頁に24編を収め、伊藤桂一の栞が付く。
 どれだけの周りのものを身に纏いながら、人は成長してくるのだろうか。作者は鹿児島の漁師町を故郷に持つ。収められた作品のいくつかは鹿児島弁が用いられており、漢字の読みなどは振り仮名を見なければわからず、また漢字表記がなければ発音だけでは意味も捉えにくいだろう(かって作者の鹿児島弁による自作詩朗読を聞いたことがあるが、東北地方の言葉とは異なる抑揚の美しさがあった)。
 「風待ち岬」。野水仙が一面に咲く岬につづく丘は土葬の地となっており、自死した幼なじみが葬られている。「苦しく行き詰まる前に/まわりにも自分にも逆らえばよかったのに/上手に風をよければよかったのに」と、風に負けてしまった人を悼んでいる。本当はここから出ていくための風を待つ岬だったはずなのに、と。

   あの日
   紐の端が風に乗り天に向かって揺れた という
   女は雲に乗って岬を抜け出せたのだろうか

   わたしは葬ってきたばかりの女と歩いている
   風待ち岬では影までもが風癖をつけて
                           (最終部分)

 葬儀に参列して死を見送った作品もいくつかある。生の裏側には死があるのは道理だが、幼いころに殺生などをしたために生まれ変わる時は人間ではなくなるのではと秘かに心配する表題作は、滑稽なようで、よく考えると不気味である。

   人は生まれ変わる新しい命を持っているからのう
   悪いことをすると人間に生まれ変われないからのう
                          (「未来がだんだん」より)

 お婆に言われた言葉は、故郷と共にいつまでも作者に染みついているのだろう。長じてからの地獄耳や二枚舌、付睫毛などがわたしをどんどん人間から遠ざける…。
コメント
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