瀬崎祐の本棚

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詩集「トットリッチ」  岡田ユアン  (2012/10)  土曜美術社出版販売

2012-10-26 23:34:29 | 詩集
 詩と思想新人賞受賞の作者の第2詩集。93頁に18編を収める。
 制度とか、規則とかいった約束事は集団生活を円滑におこなうためのものだろう。裏返せば、人は、約束事をしておかなければ他人と共存することが大変に困難であるような存在なのだろう。作者は、そんな約束ごとを振りはらった地点に立つことを希求しているようだ。
 「いまだ何ものもうみださない体にのって/春風にふかれている」とはじまる美しい詩編「星の耳打ち」。風はなまぬるくて、しかも気を遣うように頬をなでるので「居心地がわるくてしかたがない」のだ。春になり他のものは解き放たれたのに、「わたしは かたくなに蕾を抱え」たままなのだ。

   完全も 不完全も
   経験という名では同じだと
   星々は耳打ちした

   その夜
   ねじれたドーナツの面を歩く
   わたしをみた
   かなしみをつれ歩く姿は愛らしく
   深い眠りにいざなってゆく
                       (最終部分)

 どの作品にあらわれる”わたし”も“私”も、ひとりぼっちである。描かれる世界には、他には誰もいない。他人との約束事を捨てたときに、ひとりで存在することを覚悟して選び取ったのだろう。
 散文詩形で書かれた「砂漠の信号」には、カフカを思わせる面白さがある。砂漠に置かれた丸い縄の中に立ちつくしている男は、法を犯したために三年間拘束されており、赤く塗られた木の札を通りかかった旅人が裏返して青に変えてくれるまで立ちつくしている人々もいる。人がつくりだした法律が、ただの形となって人を支配している様をあっけらかんと描いている。
 約束事が集約されたものとして”文字”があるのかもしれない。単に線の形であるのに意味を担うと約束されている。だから、ときどきはその約束に叛きたくもなるわけだ。
コメント
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