瀬崎祐の本棚

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詩集「神経伝達物質」  大島元  (2010/05)  和光出版

2010-06-21 11:44:03 | 詩集
 第3詩集。23編が収められている。
 ”女房”と二人の年金暮らしの日常が描かれているのだが、実に微笑ましい作品ばかりである。女房が牧師さんに作者の悪口を電話でこぼす、そのうちに「うちの亭主にもいい所があるんです」と話が続く。

   今日は長々とお電話して
   貴重なアドバイス
   有難うございました
   と言って電話を切った

   自分で言うて自分で答えを出して
   それにお礼を言っている
                           (「女房の電話」最終部分)

 「手伝い」について詩誌発表時に書いた感想の一部は、「別に哲学を語るわけでもないし、深い人生模様というわけでもないが、良いよなあ。詩を書くという行為が、その人の人生に確実に何かを付け加えていることが良く感じ取れる。」というものだった。この作品は、夕食後に女房が疲れて寝るので作者は洗い物をして手伝ってやるのだが、いつも洗い物が終わるころを見計らって女房は起きてきて、自分のコーヒーを入れて飲む、というもの。作者がお前はズルイゾと言うと、女房は今夜はずっと寝たふりをしている。
 企まずしてのユーモアがあるのだが、それは他人に対しても自分に対しても正直に生きているからだろう。だから発する言葉に嫌みがなく、辛いことでもあるがままに引きうけている強さもある。それが過不足伝わってくる巧みさもある。
 大上段に振りかぶったような大仰な詩集ではないが、ほわーっとした温もりが感じられる。
コメント
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