瀬崎祐の本棚

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鶴亀  4号  (2010/04)  兵庫

2010-06-15 18:26:12 | 「た行」で始まる詩誌
 「茄子を煮る人」武内健二郎。
 台所で何かをしている祖父に、幼い私は「何をしているの」と尋ねる。すると祖父は「茄子を煮ている」と、船場言葉の抑揚で答えたのだ。いま、私の目の前では茄子が煮えており、背後から幼子が「何をしているの」と尋ねるのだ。時が流れて、尋ねた自分が尋ねられる位置にいる。
 
   茄子を箸で刺す
   皮の裂け目から
   答えのような身が
   はみ出る
                                  (最終連)

 何の説明もなく、何の感情の抑揚もないように記述されている。タイトルも、「茄子を煮る人」と、まるで絵画のタイトルのように客観的だ。茄子を煮ている自分を意識してそのことを書きとめている自分は、外側から自分を眺めているようだ。
 背後から私の行為を尋ねているのは、あるいは、幼い頃の私自身なのかも知れない。今の私は、かっての自分に無邪気に尋ねられたときに、自分がしていること、そしてしてきたことを納得がいくように説明できるだろうか。思わず箸で刺して確かめる茄子の皮の裂け目からはみ出た答えは、あるいはひどく醜いものではないだろうか。
 あのとき、祖父は何を思いながら「茄子を煮ている」と答えたのだったか。そこまで思いがつながっていく作品。
コメント
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