瀬崎祐の本棚

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黴  2号  (2010/06)  埼玉

2010-06-08 19:31:50 | 「か行」で始まる詩誌
 「更地」飯島正治。
 6行4連できっちりと書かれた作品。新聞社の建物が移転して、そこが更地になっている。かってそこに新聞社があった頃には、そこで「銃声の下の子供たちの見開かれた瞳」や「墜落する旅客機の乗客の震え」などのニュースが飛び交っていたのだ。そして私たちは「多くの人たちのうめき声を/聞こえないふりをして」、それらを単なるニュースとして送りだしていたのだ。毎日がそれこそめまぐるしく動き、立ち止まる暇もないほどにニュースが届き、何も考えられないままに送り出されて行っていたのだろう。しかし、今、そこが更地になってしまえば、

   更地で風が行き場を失っている
   破れた新聞紙が風に巻き上げられ
   高い煙突の天辺へ運ばれていく
   行き場を失くしていたうめき声が
   虚空に吹き上げられ凍り始める
                                   (最終連)

 忙しい現場にいたときには気づかなかった事柄に、何もなくなった更地に立って初めて気づいている。新聞社の建物の中では錯綜するいろいろな夾雑物と、おそらくは周囲を圧倒していたであろう物音が、肝心のものを隠していたのだろう。しかし、何もなくなれば、突き当たるものもなくなり、風も行き場を失う。更地に佇んでいる気持ちも、虚空に舞い上がっているようだ。 
コメント
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