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世界中の女性の首を真珠で締め上げてやる

2014年07月13日 | My Diary
『真珠の世界史』(山田篤美著 中公新書)は、古代メソポタミアのシュメール人や縄文式時代の我が国から初め、中世、近代、そして現代に至るまでの五千年に渡って、真珠がどのように崇めら珍重されてきたかを著しているだけではなく、真珠をめぐる一代産業史としても愉しめる作品でした。しかも、ファッションや映画とも絡めてくるところなぞは、読み手のツボをしっかりと押さえております。

真珠はダイヤモンド等の他の宝石類と大いに異なる点がある。一つは、研磨が必要なダイヤモンド等の宝石とは異なり、真珠は自然が生み出した時点から完璧な形の宝石であること。二つ目は、鉱物の宝石は資源収奪型型の産物でしかないが、真珠はバイオ・ジェミゼーション(生物による宝石形成)として貝が生み出すために再生可能なものであること。

ジパングは「黄金の国」としてマルコポーロにより伝えられたが、同時に「真珠の国」としても伝えられていたと言う。大航海時代は、日本という「黄金と真珠の国」を探し出すために始まったが、中米ベネズエラ辺りで真珠が発見されたことでヨーロッパに大量に流入し、ネックレスやティアラ、チョーカー等々に使われ、上流階級の女性たちの身の回りを飾るのに不可欠は装飾品となりました。

20世紀初頭にココ・シャネルが女性解放のために発表したリトル・ブラックドレスに適した唯一のジュエリーである真珠は、エメラルド等の色つき宝石と金で作られていた従来型のジュエリーを「クラシック」なものに置き去りにすることでジュエリーの最高峰に上り詰めた。NYに進出したカルティエが二連の真珠のネックレスと交換で五番街にあった六階建てのルネサンス風大邸宅を手に入れたことは、真珠がどの位貴重で価値があったかを物語るエピソードとして紹介されています。

そんな真珠も、御木本幸吉が養殖真珠ビジネスに成功して欧米に輸出しだすことによって、価値が下落しジュエリーとしての座を無くしそうになる。これを救ったは、クリスチャン・ディオールの登場とハリウッド映画だったのですね。

確かに、ディオールが発表した新しいモードを見ると、絞ったウェストにフワッとしたスカートを組み合わせたことで戦争中の耐久生活に嫌気がさしていた女性たちの心を虜にしたであろうことが容易に想像できます。このファッションがハリウッド映画に取り入れられたことで世界中に広がっていくのですが、その優美さはグレイス・ケリーが着ていたファッションを思い起こすのが一番手っ取り早いです。



復権した真珠のネックレスを宣伝するために、ティファニーはエリザベス・テーラーをCMモデルに起用している。真をネットで検索したのですが残念ながら見つかりませんでした。<悔しい...>

映画「ティファニーで朝食を」ではオードリー・ヘップバーンが同じように真珠のネックレスを背中に垂らしたブラックドレスを着て、ティファニー本店の前でパンを齧るようになる。<こちらは画像が見つかりました>


ほぼ同時期に復活したシャネルが発表したシャネルスーツも、社会進出したアメリカの女性に受け入れられ、これに合ったジュエリーとして真珠の価値も見直されて日本の真珠ビジネスもめでたしメデタシの黄金時代となるのでありました。

そんな中、真珠ビジネスに打撃を与えたのは、1960年代半ばに沸き起こったミニスカートのブームだった。確かに、今までのファッションの正反対を行くミニスカートは、活動的・前衛的といった雰囲気があり、色とりどりのプラスチックの宝飾品の方が似合うよね。ジュエリーと言えども世の流れには抗しきれずに価値が上下落するんだね、本来の価値とは別のところで。

ミニスカートのブームも去り、スカートの丈が長くなると真珠の価値も復権していく。このあたりになると、私としても実感がある。ミニ、ミディ、ミモレといってスカートの丈がだんだんと長くなってくる時代を中・高校生として実体験していましたから。

しかしながら、日本オリジナルのビジネスモデルとして「世界中の女性の首を締め上げた」日本の真珠事業にも、長年の養殖による海の疲弊と養殖技術の海外流出、特に中国における淡水真珠の大量生産による安い真珠製品の流入による曲がり角が訪れたことを著者は紹介しています。

たった300ページにも満たない新書であるにも拘わらず、真珠の生態、宝飾品としての価値と歴史、産業としての変遷を見事に紹介してくれた読みどころ満載の一冊でした。






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