小川糸さんの3冊目の小説は『喋々喃々』。題名自体が未知な単語で、なんとなしに声に出した時に耳に残る印象から、蝶に関係する言葉かと勝手に解釈していたが(字が全然違うのだが)、実は、男女が打ち解けて小声で愉しそうに語り合う様を意味しているのだそうだ。例えや表現が一種独特であることに小川糸さんの魅力を感じていたが、このように未知の単語を題名に使ってくるとはね。新しい発見だった。
この小説は、以前に読んだ2作とは異なり、男に捨てられ自分を見失う中で得意なことに地道に取り組んでいくことで自分を取り戻していくという自己再生のお話ではなかった。一人の若い女性の恋の物語。過去の失った恋と、新たに進行しだした恋。新しい恋は不倫だ。
小川糸の小説に出てくる主人公の女性は、どれも地味な女性。決して強そうな性格ではないが、でも芯の強さを持っていることはお話が進行していくうちに分かってくるのはいつもの通り。
不倫の恋であっても、主人公はまっすぐに真摯に向き合う。恋に恋することなく、好きになった相手の家庭のことも考えつつ、でも自分の中で気持ちがどうしようも無くなるまで高まってくる様子が、淡々とではあるが美しい表現で綴られている。
特別な筒の中を通り抜けてきたような、クラリネットの低音に似た、聞いていて心地よい声
木ノ下さんと会うことを想像するだけで、胸にたくさんの花の蕾が詰め込まれたみたいになり、呼吸を苦しくなってしまう。落ち着いて深呼吸しないと、酸素不足で息が詰まりそうだった。
昔の恋人がどんなに好きだったかも、この一文だけで十二分に伝わってくる。なんて上手い表現なんだろう。
私は、雪道君があの日着ていたTシャツの、くたっとした肌触りや柄や色まで覚えている。
小川糸らしい表現や物の例え方は健在で、こんな言い回しがあったのかということにも改めて驚く。
最初に口の中に流れ込んできたのは、生クリームだった。柔らかい、こなれた絹のような感触。その後、ほどよい甘さの上品なミルクティがやって来る。
ドリルで地面に穴を開けるみたいに、言葉のひとつひとつが、心に突き刺さる。
外は青空なのに、季節はずれの雪が舞っている。地上の汚れを必死で白く塗り潰そうとするかのように、雪は、一生懸命に降っている。
午後になるとどんどん雲が重たくなった。空一面、グレープフルーツジュースを流し込んだみたいに白く濁り、壊れかけたアコーディオンのような不穏な音を響かせて冷たい北風が吹いている。
ひとりぼっち。
突如、そんな単語が私の胸にぽっかりと空いた穴の暗がりへ忍び寄ってくる。
この小説は、以前に読んだ2作とは異なり、男に捨てられ自分を見失う中で得意なことに地道に取り組んでいくことで自分を取り戻していくという自己再生のお話ではなかった。一人の若い女性の恋の物語。過去の失った恋と、新たに進行しだした恋。新しい恋は不倫だ。
小川糸の小説に出てくる主人公の女性は、どれも地味な女性。決して強そうな性格ではないが、でも芯の強さを持っていることはお話が進行していくうちに分かってくるのはいつもの通り。
不倫の恋であっても、主人公はまっすぐに真摯に向き合う。恋に恋することなく、好きになった相手の家庭のことも考えつつ、でも自分の中で気持ちがどうしようも無くなるまで高まってくる様子が、淡々とではあるが美しい表現で綴られている。
特別な筒の中を通り抜けてきたような、クラリネットの低音に似た、聞いていて心地よい声
木ノ下さんと会うことを想像するだけで、胸にたくさんの花の蕾が詰め込まれたみたいになり、呼吸を苦しくなってしまう。落ち着いて深呼吸しないと、酸素不足で息が詰まりそうだった。
昔の恋人がどんなに好きだったかも、この一文だけで十二分に伝わってくる。なんて上手い表現なんだろう。
私は、雪道君があの日着ていたTシャツの、くたっとした肌触りや柄や色まで覚えている。
小川糸らしい表現や物の例え方は健在で、こんな言い回しがあったのかということにも改めて驚く。
最初に口の中に流れ込んできたのは、生クリームだった。柔らかい、こなれた絹のような感触。その後、ほどよい甘さの上品なミルクティがやって来る。
ドリルで地面に穴を開けるみたいに、言葉のひとつひとつが、心に突き刺さる。
外は青空なのに、季節はずれの雪が舞っている。地上の汚れを必死で白く塗り潰そうとするかのように、雪は、一生懸命に降っている。
午後になるとどんどん雲が重たくなった。空一面、グレープフルーツジュースを流し込んだみたいに白く濁り、壊れかけたアコーディオンのような不穏な音を響かせて冷たい北風が吹いている。
ひとりぼっち。
突如、そんな単語が私の胸にぽっかりと空いた穴の暗がりへ忍び寄ってくる。