穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

教団を壊す話と作る話

2017-07-17 21:21:44 | 直木賞と本屋大賞

中島らも氏の『ガダラの豚』という小説はある教祖の奇蹟というか超能力を手品師があばくという小説である。教団が壊れたかどうか分からないが、教団のトリックを暴かれそうになって不法行為を行った教祖、幹部が逮捕されるのが第一部である。

 この小説は第三部まであるが(文庫でも三分冊)、一部と(二部、三部)は有機的な関連はない。ただ登場人物が同じメンバーであるというだけである。言ってみれば毎回シャーロック・ホームズが出てくるが話は違うというわけ。それよりかは、つながりがあるけどね。物語としての緊密性というかまとまりはない。

 登場人物は民俗学者(先生、弟子、家族)、手品師、超能力青年の成れの果て(スプーン曲げ)、TV局の番組担当者。

 第二部はTV局と学者がタイアップしてアフリカに取材に行く。ケニアの呪術を民族学者が現地調査し、その様子をTVが取材編集放映するという企画である。第一部と第二部は一冊にまとめてもいい。書くと長くなるし、面倒くさいが8年前のフィールド・リサーチの時に事故死した民俗学者の娘が呪術師の呪具になっているのを奪い返して命からがら日本に逃げ帰る。この結末活劇はTVの低俗番組のことし。

 第三部は第二部終わりの活劇の続きで奪われた娘を取り返しにアフリカの呪術師が日本に来てチャンチャンバラバラする話だが、まるで低級TV活劇の粗書き(なんていうの、脚本、台本?)あるいは低級な子供向け漫画を見るが如し。

 一部と二部は割と読ませるが第三部はいきなり質が低下する。そのためかどうか、この作品は平成5年上半期の直木賞候補だったが、高い評価は得られなかったようである。

 なお、タイトルは新約聖書に出てくる話でエピグラフに全文が引用されているが、叙上の小説の内容とはマッチしない。

 


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