今迄紹介したのは、現在使われている河内弁や泉州弁が入り混じった日常的な大阪弁が中心で、言葉遣いが悪く、早口なイメージがあるので、馴染みのない人には、普通の会話さえ漫才のように聞こえたり、あるいは喧嘩をしていると思われたりするのです。
しかし、大阪にも優雅な雰囲気を持った言葉もあるのです。(と言うべきか、「あったのです」というか迷います)
それは、昭和中期まで、折り目正しい大阪弁の代表格として意識されていた所謂「船場言葉」で、谷崎潤一郎の『細雪』に代表されるような、大阪を舞台とした小説や松竹新喜劇などの演劇やドラマなどでも使われていましたが、昨今では日常会話では耳にすることはまずないです。
船場(現在は大阪市中央区)は、江戸時代以降「天下の台所」とも呼ばれるほど繁栄した大阪の中心となる商業地なので、顧客に対して謙虚でへりくだった対応と、上品な言い回しの丁寧な言葉遣いが特徴です。
また、御所のお膝元であるがゆえの遠慮からか、京言葉には侍言葉も多く取り入れられているので、船場言葉の方がより公家言葉の影響を強く受けているともいわれています。
「船場言葉の代表としては、はやり家族の呼び方でしょう。
まず、主人は「旦那さん」が訛った「だんさん」、商家の奥さんは「御寮人」が訛った「ごりょんさん」といいますが、「お家さん」から訛った「おえはん」ともいいます。
続いて、これは有名ですが女の子の呼び方は
いとはん(長女)・なかんちゃん(中の娘)・こいさん(末娘)です。
※「いとはん」は、「愛しい人」からきた言葉で、「こいさん」は「こいとさん」が縮まった言葉です。
一方、男の子の呼び方は、
あにぼんさん(長男)・なかぼんさん(中の児)・こぼんさん(末の児)で、成人したらわかだんさんとなります。
「船場言葉」は商人たちが使った言葉なので、商人らしい金銭感覚も強く反映されています。
代表的な挨拶である、「まいど、おおきに。儲かり(かって)まっか?」「まいど!ボチボチでんな。」だけでなく、商人としての日常の言葉や、客との応対の駆け引きなどが数多くありました。
・「ええし」: 金持ちの人 反対語は「がしんたれ」(頼りない貧弱な人)です
・「始末する」:「始末」は本来、一部始終を意味するが、始めと終わりをきちんと整えることから、船場商人たちは、倹約を「しまつする」と表現しました。また「しまつ」は「ケチ」とは違うのです。
「しまつや」は尊敬されますが、「無駄使いする人」や「ケチな人」は蔑まれます。
・「勉強させてもらいまっさ」: 値引きさせていただきます
・これに関連し、「値段がもう少し安くなるなら買います」は、船場言葉では婉曲的な「ねえ(値段)と相談」という言葉もあります。
また、<②会話などで使われる言葉>と重複するかも知れませんが、現在でも普通に使われている挨拶の言葉でも、船場言葉の名残のモノが沢山あります。
・「いてさんじます」: 行ってきます
・「おはようおかえり」: 行ってらっしゃい
・「おおきに」: ありがとうございます
・「サッパリわやや」: どうにもならない
・「あきまへん」「あかん」「あかんなぁ(がなぁ)」: 駄目です
・「そうでっしゃろなぁ」: そうやろうなぁ
・「〇〇でっしゃろ?」: 〇〇でしょう?
・「そうでんなぁ」: そうですねぇ
・「せわしない」: 落ち着きがない、忙しい
・「かんにん」: ごめん
・「かんにん」: ごめん
(まさ)
※ この項は<LIFULL HOME‘S PRESS><絶滅危惧の「船場言葉」|千世(ちせ) (note.com)>などを参考にさせて頂きました。