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重いテーマに挑戦したが『レインツリーの国』by有川浩

2020年11月11日 | 小説レビュー

『レインツリーの国』by有川 浩


~きっかけは「忘れられない本」。そこから始まったメールの交換。共通の趣味を持つ二人が接近するのに、それほど時間はかからなかった。まして、ネット内時間は流れが速い。僕は、あっという間に、どうしても彼女に会いたいと思うようになっていた。だが、彼女はどうしても会えないと言う。かたくなに会うのを拒む彼女には、そう主張せざるを得ない、ある理由があった―。「BOOK」データベースより


う~ん・・・。読み終えて色々な感情が渦巻いているというのが正直な感想ですね。良かった点、悪かった点、初めて気づかされたことなど、本当に色々な感想です。レビュー評価も、良い評価と悪い評価に分かれており、難しいところですね。


ストーリーは、小説のレビューを掲載しているブログを見た主人公が、管理人の言葉遣いや感性に共感を覚え、思わず長文のメールを送るところから始まります。数度の長文メールのやり取りを経て、「会いたい!会ってみたい!」となるのは世の常ですよね。
現実問題として、「会ってビックリ!(◎Д◎)!」くらいで済めばいいのですが、犯罪に巻き込まれたりするケースも多々あり、ネットから始まる身元不明者との付き合いは、やはり慎重に慎重を期すべきだと思います。
本作の場合、それが、まぁまぁうまくいきかけるんですが、彼女の方には隠していた重大な秘密があったんですね。それは「感音性難聴」という聴覚障害でした。
中盤あたりで、そのことが明らかになり、主人公の男性も当然ショックを受けます。
自分の取った感情的な行動を反省しつつ、「だからって!あんな態度とることないやん!」みたいな自己弁護や、独りよがりの思いが溢れてきたり・・・。それでもヒロインの女性を愛する気持ちの強さと、自分の過去の生い立ちなどが複雑に入り乱れて、恋の行方もわからなくなっていきます。


さて、有川浩氏の作品といえば『三匹のおっさん』でも感じましたが、少し浅いんですよね。 予定調和を感じつつ、時間つぶしに軽く読むタイプの作家さんなんかな?とも思ったりしますが、軽く読める作品を多く世に出している作家さんが取り上げたテーマが「聴覚障害をもつ少し卑屈な女性と、健聴者であるが、過去に悲しい家族との別れを背負っている男性」の恋物語では、少し重荷ではなかったかと思います。

有川氏の描きたい世界観や思いは伝わってくるものの、最後にハッピーエンドに持っていくためのスケジュール通り、読者の予想を裏切らない形で、簡単に収束していきます。

そもそも「健聴者」という言葉自体なじみがなかったので、色々と勉強になりましたが、筆者のあとがきや、山本弘氏の解説にもあるとおり、『障害者』を取り扱った小説とかは、とても難しいということです。

 受け取り手の感受性によって、評価に非常に大きな隔たりがあると思いますし、それでもこういう聴覚障害者と健聴者との恋愛という難しいテーマに挑戦した筆者の決断には敬意を表したいと思います。

主人公の関西弁が鼻についたりする部分や、二人のメールでのやりとりに若干の面倒くささを感じたりしましたので、評価としては少し下がります。
★★★3つです。