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この作家さんは凄い人なんですよ!『完全恋愛』by牧薩次

2020年11月02日 | 小説レビュー

『完全恋愛』by牧 薩次  

~第二次大戦末期の福島県の温泉地、東京からやってきた少年・本庄究は、同じく戦火を逃れてこの地に暮らしていた画家の娘・小仏朋音に強い恋心を抱く。やがて終戦となり、この地方で進駐軍のアメリカ兵が殺されるという事件が起こる。しかし現場からは凶器が忽然と消えてしまう。昭和四十三年、福島の山村にあるはずのナイフが、時空を超え、瞬時にして西表島にいる少女の胸に突き刺さる。昭和六十二年、東京にいるはずの犯人が福島にも現れる。三つの謎の事件を結ぶのは、画壇の巨匠である男の秘められた恋であった。「本格ミステリ大賞」受賞作品を文庫化。「BOOK」データベースより


何の先入観もなく「完全恋愛」というタイトルと表紙から連想したストーリーとは全く違い、2009年第九回「本格ミステリ大賞」を受賞した作品です。レビューの評価が分かれる作品ですが、ミステリ作品としての完成度も高く、僕は、なかなか良かったと思います。

冒頭の書き出しに、「他者にその存在さえ知られない罪を完全犯罪と呼ぶ。では、他者にその存在さえ知られない恋は完全恋愛と呼ばれるべきか?」、という一文にグッと惹き込まれました。

物語は、一人の画家が生きた時代である戦争末期~戦後~高度経済成長~バブル期に至るまでの50年ほどの間に起こった3つの殺人事件を柱としたミステリー小説です。

実際の史実と同じように絡めてあるので、主人公の本庄究氏が実在の人物であったかのような錯覚を覚えました。

のちに段々と明らかになってくる仕掛けの為の細かな伏線が隅々に張り巡らされており、なかなかの緊迫感を持って物語は進みます。

クライマックスから、一気に謎解きが展開するんですが、なかなかのどんでん返しっぷりで、3回?4回ぐらいひっくり返ります。

中には「んっ?」と思うトリックというか仕掛けに疑問符も付きますが、555頁の内容に飽くことなく、一気に読み切りました。

余談ですが、あとがきを読んで初めて知ったんですが、牧薩次(マキサツジ)というペンネームは、辻真先(ツジマサキ)氏のアナグラムだったんですね。

しかしながら、皆さん知ってました? 辻真先氏ってスゴい人ですよ!

1932年生まれで、大学卒業後にNHKに入社するも、脚本の仕事がおもしろくなって、7年4カ月勤めたNHKを退職し、脚本家として歩みだしたんですって。

手がけた作品は、ざっと抽出しただけでも

「エイトマン、鉄腕アトム、オバケのQ太郎、ジャングル大帝、魔法使いサリー、リボンの騎士、パーマン、巨人の星、ゲゲゲの鬼太郎、サイボーグ009、アタックNo.1、サザエさん、タイガーマスク、ひみつのアッコちゃん、のらくろ、さるとびエッちゃん、天才バカボン、ふしぎなメルモ、おんぶおばけ、デビルマン、ど根性ガエル、キューティーハニー、ドロロンえん魔くん、バビル2世、魔女っ子メグちゃん、一休さん、勇者ライディーン、超電磁ロボ コン・バトラーV、超電磁マシーン ボルテスV、ドラえもん、おじゃまんが山田くん、Dr.スランプ アラレちゃん、忍者ハットリくん、あさりちゃん、うる星やつら、パタリロ! 、さすがの猿飛・・・etc」

我々の世代が小さい頃に、家のテレビで観ながら育ったアニメのほとんどが、辻真先氏の手掛けた脚本によるものだったんですね~!ビックリしましたよ。 

そして、72年に『仮題・中学殺人事件』でミステリ作家としてデビューし、現在でもTVアニメ『名探偵コナン』の脚本を手掛けるほか、大学教授として後進の指導にあたっているとのこと。本当にすごい人ですよね!

御年88歳の辻真先氏ですが、現在も小まめにTwitterで発言をされるなど、とっても元気な方です!

そして、本作ですが、なかなかのミステリー小説だと思いますよ。
★★★☆3.5です。