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フランス美術界の革命を描いた快作!『たゆたえども沈まず』by原田マハ

2020年05月29日 | 小説レビュー

『たゆたえども沈まず』by原田マハ

 

~誰も知らない、ゴッホの真実。 天才画家フィンセント・ファン・ゴッホと、商才溢れる日本人画商・林忠正。二人の出会いが、〈世界を変える一枚〉を生んだ。

1886年、栄華を極めたパリの美術界に、流暢なフランス語で浮世絵を売りさばく一人の日本人がいた。彼の名は、林忠正。その頃、売れない画家のフィンセント・ファン・ゴッホは、放浪の末、パリにいる画商の弟・テオの家に転がり込んでいた。

兄の才能を信じ献身的に支え続けるテオ。そんな二人の前に忠正が現れ、大きく運命が動き出すーー。『楽園のカンヴァス』『暗幕のゲルニカ』の著者による アート小説の最高傑作、誕生! 2018年 本屋大賞ノミネート!~「幻冬舎紹介文より」

 

『楽園のカンヴァス』以来の原田マハさんの作品です。ご自身がキュレーター(展覧会の企画者)として活躍されニューヨーク近代美術館にもお勤めだった経歴をお持ちの原田マハさんですから、何と言っても絵画に関する造詣が深く、とても勉強になりました。

『楽園のカンヴァス』では、アンリ・ルソーに対する『愛』が強く印象に残りましたが、今作ではフランスにおける『官展(サロン)=旧態依然とした勢力』に真っ向勝負を挑む印象派の若手画家達と、それを心から応援する画商の革命的挑戦を描いた作品となります。

『印象派』と聞いて、何となく「ルノワールとかモネとか?」と、朧気にある感じでしたが、今作を読んで、いろいろなことがわかりました。

wikipediaで『印象派』について調べますと、当時のパリ美術界の様子が良くわかります。

19世紀中ごろのパリでは、国家芸術アカデミーが美術に関する行政・教育を支配し、その公募展(官展=サロン)が画家の登竜門として確立していました。そんな閉鎖的なパリ美術界に敢然と立ち向かったのが、モネルノワールシスレーらの若手画家が立ち上がり、マネが続き、ピサロらもこれに加わって、若手画家達が、風景やその当時の生活を描いた作品を官展に叩きつけました。

しかし、当時の審査員たちの酷評のもとに『印象派』の若手画家たちの作品がほとんど落選させられ、事態を重く見たナポレオン3世が、『落選展』を開催すると、大変な活況を見せたということです。

そうした印象派画家たちの血のにじむような努力の甲斐もあって、1880年頃には、サロンでも印象派の作品は当たり前に出展されるようになったのでした。

やや前置きが長くなりましたが、本作は主役であるフィンセント・ファン・ゴッホと、弟のテオドルス・ファン・ゴッホの、とても暗く辛い人生を生きた様子が描かれています。

そこに実在の日本人画商、林忠正が絡み、物語がどんどん面白くなっていきます。

原田マハさんの、史実に基づいた伝記のような物語に、独自のスパイスを練りこみ、見事な作品に仕上げていく技術は抜群ですね。

生前はほとんど評価されることはなく、なかば狂人のような扱いを受けて、寂しい最期を迎えることになったゴッホと、様々な葛藤を抱えながらも、その兄を献身的に支え続け、兄の死後に自らも病に倒れ、その半年後に天に召されてしまうという悲しい物語です。

皆さんご存知の通り、ゴッホの作品に対する評価は、没後10年を経た1900年頃から爆騰し、現在では数十億円~100億円とかで取引されていることを思うと、本当に残念ですよね。

また、ゴッホはもちろんのこと、当時の印象派の画家達が、日本の浮世絵から多大な影響を受けていることも、この本を読んでわかりました。ゴッホの『雲龍打掛の花魁』を模写とか『ジャポニズム愛』がスゴイですよね!

あらためて日本の浮世絵の色使いや構図の妙など、浮世絵画家達のセンスの高さに改めて驚きと感激を覚えました。

クライマックスで、やや失速したのは残念でしたが、印象派の絵画が欲しくなりましたし、本当に色々なことが発見できた素晴らしい小説でした。

★★★☆3.5です。