「心ゆたかな暮らしを」  ~Shu’s Page

小説のレビュー、家族の出来事、趣味の事、スポーツ全般など、日々の出来事をつづりながら、一日一日を心豊かに過ごせれば・・・

アートミステリーの快作『楽園のカンヴァス』by原田マハ

2019年07月18日 | 小説レビュー
『楽園のカンヴァス』by原田マハ

ニューヨーク近代美術館のキュレーター、ティム・ブラウンはある日スイスの大邸宅に招かれる。そこで見たのは巨匠ルソーの名作「夢」に酷似した絵。持ち主は正しく真贋判定した者にこの絵を譲ると告げ、手がかりとなる謎の古書を読ませる。リミットは7日間。ライバルは日本人研究者・早川織絵。ルソーとピカソ、二人の天才がカンヴァスに篭めた想いとは―。山本周五郎賞受賞作。「BOOK」データベースより


まぁ、全くと言っていいほど、絵画に興味のない私ですが、この小説を読んで、『にわか絵画フリーク』になりましたよ

筆者の『ルソー愛』が凄く伝わってきます。文中にも出てきますが、『ルソー』といえば、哲学者の『ジャン・ジャック・ルソー』を思い浮かべますが、本作の主役は、画家の『アンリ・ルソー』です。


『私自身:肖像=風景』(1890年)

巻末に「この物語は史実に基づくフィクションです」と書いてあるのですが、パブロ・ピカソやカンディンスキーなどの前衛芸術家に影響を与えたとされている偉大な画家、『アンリ・ルソー』を巡る物語です。

さて、ストーリーですが、時は2000年頃、倉敷の大原美術館に勤める織絵という主人公が、ルソーの代表作であり最期の作品となった『夢』を巡って、ニューヨークの近代美術館へ出向くというところから、物語が始まります。

時を遡って17年前、1983年に、スイス・バーゼルに住む『伝説のコレクター・バイラー氏』の代理人から、「バイラー氏が所蔵するルソーの作品を調査して欲しい」という招待状が、ニューヨークの近代美術館に勤める若手キュレーター(学芸員)のティム・ブラウンのもとに届きます。

ティム・ブラウンの上司であり、世界的に活躍している名キュレーターで「トム・ブラウン」に届いた招待状が、タイプミスで自分に届いたと思ったティムでしたが、『ルソー愛』に関しては、上司のトムよりも絶対の自信を持っていると確信しているティムは、休暇先を偽って、スイスに向かいます。

バーゼルのバイラー邸に着いたティムを待っていたのは、若く美しい東洋人の女性『早川織絵』でした。彼女はソルボンヌ大学で美術史を専攻し、ルソーに関する数多くの論文を発表して、最年少博士号を取得した天才でした。


『夢』(1910年)

この『ルソー愛』溢れる二人に対して、「ルソーの遺作である『夢』に酷似している『夢を見た』が真作であるか?贋作であるか?を確かめて欲しい。その前に、この物語を一章ずつ読んでから・・・。」という奇妙な依頼を受けます。

ここから、本文と物語が一章ずつ展開する中で、織絵とティムの感情が交錯し、バイラー氏の法定代理人の『やり手弁護士・コンツ』や、ルソーやピカソの名画を手に入れたいオークションハウスの敏腕ディレクター、そして『ICPO(国際刑事警察機構)』のアートディレクターなどが絡んできて、一気に『アートミステリー』の要素が匂い立ちます!

そして、緊張感高まるクライマックスからの「どんでん返し」、そして、晴れ晴れとした穏やかなエピローグへと物語が締めくくられます。

ミステリーファンとして読んだ場合、若干の物足りなさや、伏線回収の不足感は否めません。が、アートミステリーとして読んだ場合、本物の芸術への畏怖ともいえる筆者のこだわりや、名画を巡る関係者の情熱などが細やかに描写されていて、なかなか楽しめた作品でした。

もう少しミステリー要素が高まれば4つも有り得たのですが、限りなく4つに近い、
★★★☆3.5です。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿