素浪人旅日記

2009年3月31日に35年の教師生活を終え、無職の身となって歩む毎日の中で、心に浮かぶさまざまなことを綴っていきたい。

終末時計100秒前から動くだろうか

2022年02月24日 | 日記
 ロシアのウクライナ侵攻が始まった。「するぞ!」「するぞ!」の報道が連日のようにあったがオオカミ少年のごときものかなと思っていた。こんなにも早く起るとは思っていなかった。

 侵攻の様子を伝える映像を見ていたらふと「終末時計」が頭をよぎった。

 1945年、広島、長崎に原子爆弾が投下され第二次世界大戦が終結したが、その原子爆弾を開発するマンハッタン計画に関わっていた科学者の一部は、核エネルギー、原子爆弾は人類・文明にとっての新たな脅威になると、戦後の核管理の重要性と日本に対する無警告での原爆投下への反対を政府に提言していた。世に知られるフランク・レポートである。

 しかし、訴えは拒絶され原子爆弾は投下、未曾有の大惨事が歴史に刻まれた。戦後、「核エネルギーの持つ危険性を科学者は強く社会に訴えなければならない」という理念からアインシュタインやシカゴ大学の科学者たちはメンバーを募り「シカゴ原子力科学者」という組織を結成、会報として科学誌『ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンスティスツ(原子科学者紀要)』が創刊された。

 その1947年6月号の表紙絵に現れたのが《世界終末時計》。デザインしたのはアーティストのマーチル・ラングスドルフ、原爆開発に携わった科学者たちの切迫感を見てとった彼女は時計をモチーフに選びました。核兵器を制御するための残り時間がほとんどないことを伝えるのにはこれ以上ない。7分という設定にはあまり根拠はないという。見た目というデザイナーの感覚に由来する。

 核ミサイルのスイッチを握る独裁者に対してなんの抑止力にもならないと《世界終末時計》には批判の声も多くあるが、《世界終末時計》が示しているのは未来予測ではなく、あくまで比喩であると原子科学者紀要は述べている。

 批判の是非はともあれ、核エネルギーが人類の制御下を離れたときに取り返しのつかないことになるのは、原子爆弾に限らずチェルノブイリの事故や福島の被災からも明らかである。

 「わかっていながらやめられない!」という愚かな記録を残すという意味で価値はあるだろう。フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より創設(7分前)からソ連の崩壊により一番戻った1991年(17分前)を経て100秒前になった2020年~2022年までの推移を眺めてみたい。


年  終末時計  変化詳細   主な出来事
1947年 7分前       創設。
1949年 3分前   4分進む ソビエト連邦が核実験に成功。
               核兵器開発競争の始まり。
1953年 2分前   1分進む アメリカ合衆国とソ連が水爆実験に成功。
1960年 7分前   5分戻る アメリカとソ連の国交回復。
                パグウォッシュ会議の開催。
1963年 12分前   5分戻る アメリカとソ連が部分的核実験禁止条約に調印。
1968年 7分前   5分進む フランスと中華人民共和国が核実験に成功 。
                第三次中東戦争、ベトナム戦争、第二次印パ戦争の発生。
1969年 10分前   3分戻る  アメリカの上院が核拡散防止条約を批准。
1972年 12分前   2分戻る  米ソがSALT IとABM条約を締結。
1974年 9分前   3分進む  SALT Iに続く米ソの軍縮交渉難航、両国によるMIRVの配備。
                インドが最初の「平和的核爆発」に成功。
1980年 7分前   2分進む  米ソ間の交渉が停滞。国家主義的な地域紛争。
                 テロリストの脅威が増大する。
                 南北問題。イラン・イラク戦争。
1981年 4分前   3分進む   軍拡競争の時代へ。
                 アフガニスタン、ポーランド、南アフリカにおける人権抑圧が問題に。
1984年 3分前   1分進む   米ソ間の軍拡競争が激化。
1988年 6分前   3分戻る   米ソが中距離核戦力全廃条約を締結。
1990年 10分前   4分戻る   東欧の民主化。冷戦の終結。
                  湾岸戦争。
1991年 17分前   7分戻る   ソビエト連邦の崩壊。
                  ユーゴスラビア連邦解体。
1995年 14分前   3分進む   ソ連崩壊後もロシアに残る核兵器の不安。
1998年 9分前   5分進む   インドとパキスタンが相次いで核兵器の保有を宣言。
2002年 7分前   2分進む   前年にアメリカ同時多発テロが起こる。
                  アメリカがABM条約からの脱退を宣言。
                  テロリストによる大量破壊兵器使用の懸念が高まる。
2007年 5分前   2分進む   北朝鮮の核実験強行。
                  イランの核開発問題。
                  地球温暖化の更なる進行。
2010年 6分前   1分戻る    バラク・オバマ米大統領による核廃絶運動。
2012年 5分前   1分進む    核兵器拡散の危険性の増大。
                   福島第一原子力発電所事故を背景とした原子力の安全性への懸念。
2015年 3分前   2分進む    気候変動や核軍備競争のため。
2017年 2分30秒前 30秒進む    ドナルド・トランプ米大統領が核廃絶や気候変動対策に対して消極的な発言[6]。
2018年 2分前   30秒進む    北朝鮮が行っている核開発の影響による核戦争への懸念[7]。
2020年 1分40秒前 20秒進む    中距離核戦力全廃条約失効による核軍縮への不信感
                   アメリカとイラン、アメリカと北朝鮮の対立
                   宇宙・サイバー空間上などにおける軍拡競争の激化
                   気候変動に対する各国の関心の低さ
2021年 1分40秒前 変化なし     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の歴史的な蔓延。
                    各国政府、国際機関が核兵器や気候変動という文明を終わらせる真の脅威に対応する準備ができず。
2022年 1分40秒前 変化なし     北朝鮮のミサイル発射やウクライナ情勢などによって世界の脅威が増加
                    核戦争や気候変動などの危険な課題に向けた準備が不十分
                    新型コロナウイルスのさらなる蔓延と度重なる変異株の出現
                    気候変動への目標が十分に達成されていない


 見ているとため息がでる。このウクライナ侵攻が長期化し泥沼化すると2023年の針はどうなるか? できるだけ早期に外交努力によって沈静化することを切に願う。

 国際社会から核爆弾、兵器がなくなり、核エネルギーよりも優れて安全な新エネルギーの発見がなされ、「昔は《世界終末時計》なんてものがあったのさ」と笑い話にできる日が来ることが目指すべき道。現実は逆行している。
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