大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・41』

2019-06-20 05:51:37 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・41
 
 
 
『第五章 ピノキオホールまで・2』


 だめ!

 パンプスを蹴飛ばすように脱いで、お母さんは宣告した。
 あおりを受けて、わたしのローファーがすっとんだ。

 くだくだしく言っては、言いそびれるか出鼻をくじかれるか。
 風呂上がり、玄関の上がりがまちでお母さんを待ち受けていた。
 そしてドアが開くやいなや「バイトやる!」と、正面から打ち込んだ。
「だって、みんなやってるよ!」
「いつから、DM人間になったのよ」
「DM?」
「DAって、MIんなやってるもん。の、DM。自主性のない甘ったれたダイレクトメールみたいな常套句」
 サマージャケットを放り出す。
「だって……でもさ、わたしがバイトして、少しでも稼いだら、お母さんだって楽になるじゃん」
 神戸のページを開いた旅行案内を投げ出した。
 ブワーっと、エアコンが唸りだした。
 おかあさんが「強風」にしたのだ。室外機の唸りが部屋の中まで聞こえる。
「どんな風に楽にしてくれるわけ?」
 エアコンの吹き出し口の下で、タンクトップをパカパカさせて、胸に風を入れる。
「その分さ、お母さんパートの時間減らせるでしょ、そしたら、その分原稿だって書けるじゃない」
「余計なお世話」
「でも、お母さん、ス……」
「スランプだって、心配してくれるわけ!?」
「ス……隙間のない生活でしょ。家のことやって、パートに出て、本も書かなきゃなんないし……」
「わたしはこのリズムがいいの。はるかぁ……なんか企んでる?」
「う、ううん」
「あ、ビール冷やすの忘れてた」
 チッっと舌を鳴らして、缶ビールを冷凍庫に放り込むお母さん。
「だからさ……」
「なに企んでるか知らないけど、後にして。とりあえずもう一度、だめ!」
 首を切るように、手をひらめかせて、お風呂に入った。
 わたしは、もともと親にオネダリなんかしない子だった。やり方が分からない。そうだ由香に聞いてみよう!

「バイト……なんかワケあり?」

「うーん……そうなんだけどね」
「それやねんやったら、正直にわけ言うて、正面からいくしかないやろなあ。小細工の通じる人やないと思うよ、一回しか会うたことないけど。で、わけて何?」
「言えたら、言ってるよ」
「秘密の多い女やなあ」
「で、そっちはどうよ?」
 矛先を変えた。
「言えたら……」
「なによ、そっちも」
「言うたげるわ、まだまだワンノブゼムや!」
「そうなんだ」

 ……今の、冷たく感じたかなあ。

「吉川先輩の心には、確実に坂東はるかが住んでる!」
「あの……」
「この鈍感オンナ!」
 プツンと音がして、スマホが切れた。

「鈍感オンナ」はないだろう……。

「ビールまだ冷えてないじゃん……!」
 バトルの再開。
「氷でも入れたら」
 これがやぶ蛇だった。
「それって、高校生がバイトやるようなもんよ」
「え、なんで?」
「働くなんて、いつでもできる。てか、嫌でも働かなきゃなんない。高校時代って、一回ぽっきりなんだよ。それをバイトに時間とられてさ、氷入れたビールみたいに水っぽくすることは許しません。部活とか恋とかあるでしょうが、高校時代でなきゃできないことが。ね、やることいっぱい。ビールは冷たく、青春は熱く!(ここでビールを飲み干した)生ぬるいのはいけません」

 わたしの人生って、そんなに生ぬるくないんですけどね……コロンブスの玉子はこけた。  
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