魔法少女マヂカ・258
トントン トントン
深夜、ドアを叩く音で目が覚めた。
クマさんがファントムにかどわかされて二日がたった。
夕べまでは、クマさん救出のため、侯爵を中心にいろいろ手立てを考えたり打合せをしたり、深夜になっても屋敷の中では、だれかれとなく起きていた。
「打つべき手は打った。どうやら長期戦になりそうでもある。わたしは、取りあえずクマの両親に説明とお詫びに行って来る。三四日のうちには戻って来るつもりだが、その間は、みなも少し休んでおくれ」
「いえ、まだまだ頑張れます」
春日メイド長は胸を張るのだが、その春日メイド長も、事実上の対策本部になっているリビングで舟をこいでいる。
門衛室の明かりは点いているが、詰めているのは臨時に派遣された巡査で、箕作巡査は署長から強制的に休暇を言い渡されている。クマさんを誘拐された今、まともに勤務に耐えられないからだ。
ノンコは入浴後は霧子の部屋で話し込んでいたが、何十回目か分からないため息が絶えて三十分は経つ。
さすがのわたしも微睡んでしまって、いまのノックで目が覚めたわけだ。
ん……子ども?
物憂く、緩い透視をかけると、ドアの向こうは身長130センチほどの輪郭が浮かび上がる。
返事するのも大儀なので、指をクルリと回してドアを開けてやる。
「この時代に自動ドアは無いと思うわよ」
開口一番、ミスを指摘するのは……黄帽を被った小学生。
「黄帽の小学生と言うのも大正時代には居ないと思うよ」
「いっしょに来て」
それは、この時代にやってきた日以来見ていないJS西郷だ。
「久しぶりだね。お誘いはありがたいけど、まだ、元の令和に戻れる状況じゃないわよ」
「ちょっとテレポートするだけ。時間は止められないから、すぐに」
「分かった。ちょっと、着替え……」
部屋着のボタンに手を掛けようとすると、わたしは、瞬間で制服姿になった。
女子学習院のそれではなく、百年前の大正時代に着ていた帝国特務師団の制服だ。
「これは……」
「特務師団本部は服務規定がうるさいのよ、思い出した?」
「あ、ああ」
この時代にはこの時代のマヂカが存在している。それを差し置いて、令和のわたしを呼びつけるのは反則だ。
どうも、想像しているよりも何倍も重大な事態になっているようだ。
「では、行きます」
JS西郷が示したドアの外は闇になっていて、その闇の向こうから懐かしいレンガ造りの特務師団司令部の衛門が見えてきた。
※ 主な登場人物
- 渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
- 来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
- 渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
- ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
- ガーゴイル ブリンダの使い魔
※ この章の登場人物
- 高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
- 春日 高坂家のメイド長
- 田中 高坂家の執事長
- 虎沢クマ 霧子お付きのメイド
- 松本 高坂家の運転手
- 新畑 インバネスの男
- 箕作健人 請願巡査