大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ファルコンZ・3《見れば見るほど》 

2019-11-06 06:20:06 | 小説6
ファルコンZ 
3《見れば見るほど》  
 
 
 
 
 
 ファルコン・Zは、はっきり言って小汚い。
 
 直径30メートル、高さ12メートルの三層構造の小型貨客船。船体の下半分が貨物室。いくつかの隔壁で仕切られていて、火星に持っていったら「売れる……かもしれない」ジャンク品で一杯。この「売れるかもしれない」ものを「売らなければ」船のメンテナンス費用も出ないそうだ。
 
 で、ミナコのデジタルショーもそのジャンクの一つと言ってよく。向こうのプロモーターも「ギャラクシープロ」と名前だけはイッチョマエだが、興業法違反で二回も営業停止を食らっている怪しげなもの。それ以前は「マースプロ」と名乗っていた。道理で事前に検索しても経歴はきれいなモノ。だって、今回が初めての企画なのだからきれいも汚いもない。
 
 二階がキャビンになっている。
 
 H型の通路が走っていて、16のキャビンがある。しかし、どのキャビンも汚く、今回の航海に乗客はいない。Hの真ん中は広いスペースになっていて、ダイニングを兼ねたラウンジ。この二階もラウンジを含め、ほとんどのキャビンにガラクタが詰め込まれている。
 
 そして最上階の三階がコクピットとエンジンルーム。
 
 クルーのキャビンが5つ、十人分。そして船長室。
 あとは非常戦闘用のパルスキャノンが6基。コクピットの後方に冷蔵庫ほどのマザーコンピューター。
 この情報はファルコン・Zにホンダで着くまでに、ポチがミナコに教えてくれたことだ。
「さあ、今言ったの、もっかい言ってみな」
「え、ハンベ(ハンドベルト端末)に送ってくれてないの?」
「ミナコの知能を知っておこうと思って、アナログ情報だけ。ほら、言ってみそ」
「小汚いだけで十分ね!」
 
 近づいて見れば見るほど小がとれていく。
 
 はっきりキタナイ船だ。素人のミナコが見てもいろんなメーカーの、それもジャンクパーツのツギハギだった。エンジンは三菱だけど二世代前のストックパーツも無いようなモノとホンダの型オチというチグハグだった。
「この船、保険もかかってないんじゃない?」
「いいえ、マーク船長って、最大の保険がかかってるわ。その点だけは安心して」
 コスモスが、ホンダを運転しながら言ってくれたことが、か細いけど、唯一の保証で、ミナコはドタキャンせずに済んだ。
 ファルコンの下部ハッチにホンダごと入ってタマゲタ。   
 
 ミナコたちより先に乗船した船長の車があった。なんとタイヤ付き!
 ハンベが、すぐに答を教えてくれた。
――ホンダN360Z、400年前の軽自動車――
 そして、この船と、このバイトに関する情報が、不必要に詳細なデータとして送られてきた。ミナコは驚きも呆れも通り越してムッと無言になった。
「コスモス、ミナコの能力と忍耐力は予想以上だよ」
「嬉しいわ、逃げ出すんじゃないかとヒヤヒヤしていたのよ」
「コスモスさん。あなただけが頼りだったのよ……」
 ロイドリングを消して、コスモスとポチがエレベーターに乗った。ミナコはホンダN360Zをマジマジと見た。良く言えば「地に足の着いた」。現実的には、大昔の葉書4枚分で地面に接し、その一枚分が外れただけで身動きの出来ない頼りない乗り物。古典的なカーナビさえ付いていない。もう博物館の陳列品そのもの。
「いつまでも、そうやってると貨物と同じ扱いにしちゃうぞ!」
 ポチがコスモスに抱かれながら、ニクソイことを言う。
 
 二階をパスして、最上階のコクピットに着いた。
 
 バルスが目だけで挨拶して、発進準備に余念がない。コスモスがすぐに手伝い始め、コスモスの手を離れたポチは、奥の部屋に駆け出した。
 ポチが入ったのは、船長室。どうやらドアの開け方も心得ているらしい。
「ポチ……」
 ポチは、奥のカーテンをくわえて開けた。で、びっくりした!
 ミナコと同年代の女の子が裸で膝を抱えて座っていた……ガイノイド、エッチ系の!?
「長い航海、寂しい夜もあるさかいな」
 マーク船長が、入り口を通せんぼするように、ニヤニヤ笑いながら立っていた……。
 
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