大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

REオフステージ(惣堀高校演劇部)030・立ち入り禁止の部室棟

2024-05-14 06:32:55 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
030・立ち入り禁止の部室棟                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです




 二日で駆除できます。


 部室棟の検分を終わった業者は太鼓判を押した。

「ただ、柱や基礎への浸潤が限度を超えていてますんで、建物自体の検査をやって頂かないと手が出せません」

「というと……」

 正確さを期したい事務長が訊ねる。

「耐震補強はされてるんですが、そこと建物本体の接合部もグズグズだと思われるんです。万一の時は耐震補強の部分だけが残って倒壊するかもしれません。でも、その判断は害虫駆除のうちではできませんので」

 校長と事務長は渋い顔になった。

 業者の言うのはもっともで、建物の劣化を見過ごしたまま作業をすると後々問題になる。最悪、害虫は駆除したが建物自体が使用禁止では笑い話にもならない。

 そこで府の教育庁と連絡を取り、検査官に来てもらって検査をしたのが昨日のことだ。

「震度5強で倒壊の恐れがあります、とりあえず緊急に使用禁止にしてください」


 学校はただちに部室棟の出入り口を封鎖した。


 生徒も教職員も入れなくなってしまった。

「私物のパソコンとか残ったまんまなんですよ(;'∀')!」

 教頭に詰め寄った啓介だったが「決定事項や!」と突っぱねられてしまった。

 遅れて気づいた他の部長たちも、顧問やら教頭やらに木で鼻をくくったような返事しかしてもらえず、部室棟の前にたむろするしかなかった。

「どないなんねん、荷物くらい取らせてもらわんと活動でけへん」

「制服脱いだままや」

「あたしは体操服」

「俺は教科書」

「うちは金庫に部費!」

「弁当箱!」

「思い出!」

 騒ぎ始めた生徒たち、それを見かねたのだろうか、教頭と生徒会顧問の松平が現れた。

 なにか対策を発表してくれるのかと期待したが、予想もしない答えが返って来た。

「たった今、府から連絡が来た。今月末には取り壊しになる。けして中には入らんように!」

 いつになく厳しい物言いをする教頭。

 差し迫った事態というよりは、大阪府の権威を背負った小役人が威張っているだけのように思える啓介だ。

 部室棟の周囲にはトラロープが張られ、大阪府のハンコの押された立ち入り禁止証がペタペタ張られた。


 それが今朝の状態である。


 朝練の運動部のさんざめきが部室棟を貫いて聞こえてくる。

 文化部が退去させられた部室棟は、スカスカになったみたいで、いつもより、そのさんざめきが大きく聞こえるような気がする啓介たちだ。

 キーキー……

 車いすを転がす音もいつもより響くような気がする。

――なんでこうなるかなあ(-_-;)――

 順調に計画は進んでいた。

 がんばったけど、クラブが潰れたら仕方ないよね。

 その免罪符を勝ち取るための演劇部だった。

 この一か月学校に通えたのは、この企みがあったからだ。

 ズルズル在籍して、休みがちになり、いろんな人に気持ちを忖度されステレオタイプの同情をされ、お母さんと学校が眉根を寄せて相談。家庭訪問、クラスのみんなが手紙とか書いてくれて、それが口をきいたこともないような学級委員とかが家まで持ってくる。殊勝な顔でお礼を言って、先生とかクラスの何人かが痛ましそうな顔して……そのあげくに辞めるのなんてやだ。

 演劇部潰れたのが引き金で「やっぱ、惣堀は合いませんでしたあ(^〇^;)」くらいの軽さで辞めたかった。

 たった一か月だったけど、辞めるという不届きな目標だったけど、久しぶりにハリがあった。

 ハーーーーーーーーーーー

 長いため息が出る、涙まで出てきた。


 そんな千歳の姿を渡り廊下の柱の陰で見ている者がいたのであった……。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局     

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