大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・129『ココの資料整理』

2022-10-17 10:05:49 | 小説4

・129

『ココの資料整理』心子内親王  

 

 

 戦史資料室黒書院分室……ちょっと長いから分室。

 分室の資料は、文書、電子資料、現物資料に大別できるけど、その大半が悲惨なもの。

 

 例えば、ある前線基地への補給。給水要請があってから実施までに三週間もかかっている。

 当時の火星は極地方を除いて地下水は無いから、補給を受けた時には手持ちの水を飲み干して、半数は渇きで死んでいるでしょう。

 

 戦闘終了後、戦果確認のために数えた敵の遺棄死体、15・5人。

 死体数に小数点が付いているのは、バラバラになった死体が多いので、欠損部位を集めて推測した数が入っているから。

「最終的には、手足の数で決めるそうでござる」

 軍に問い合わせてくれたサンパチさんが教えてくれる。

 

 自軍戦死者取り扱いについての遺族の感想。感謝の言葉が多かったけど、こんな苦情があった。

―― 最後のキスをしようとしたら、夫の口の中には舌が無かった ――

「戦死体は、腐敗防止のために、内臓や舌は取り出してしまうのでござるよ」

 これは、問い合わせもせずにサンパチさんの即答。地球でもそうなんだ(;'∀')

 

 集落が敵襲を受け、少年一人を残して一家全滅。

 少年は、赤ん坊を背負って、まるで兵隊さんのように直立不動。

 ちょっと見には、可愛くも凛々しい姿。

「背中の赤ん坊は亡くなった妹でござる。少年は、直立不動で赤ん坊が火葬される順番を待っているのでござる」

「でも、なんで、直立不動?」

「少年の父は軍人でござる……死者を悼む最高の礼が直立不動……これしか知らなかったのでござりましょう」

 

 そして、次に手に取ったのが『赤錆の露頭』と、ちょっと文学的なタイトルが付いた記録。

「マス漢戦争の遺物でござるな」

 戦争記録は戦時中のものに限らない。戦後、年月が経ってから発見されたものもある。これは、そういうものの一つのよう(049『赤さびの露頭』)。

 

 発見者は旅人とあるだけだけど、記録は詳細だった。

 旅の途中、赤錆の露頭にぼろ布のようなものが見えて、部下と共に掘ってみると、五人分のミイラ化した遺体が出てきた。検分すると、全員後ろ手を縛られた扶桑軍兵士。二人が男性、三人が女性。

 男性兵士のミイラには首が無く、女性兵士は下半身が露出している。

「なんと云うこと……」

「往々にしてあることでござる、戦争とは狂気そのものでござるよ」

「しかし……ここ、三年前だから、まだ現場が残ってるわよね」

「行ってみますか?」

「うん、胡蝶さんに頼んで……自分でお話してみる」

 資料を閉じて立ち上がると、ハンベに緊急速報のシグナル。開いてみようと思ったけど、脚は胡蝶さんの詰所に向かっているので、後回しにすることにする。

 

「了解しました」

 

 胡蝶さんの即答で、わたしはサンパチさんとともに赤錆の露頭を目指した。

 

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  •  

  

 

 

 

 

 

 


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