大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

スーパソコン バグ・1 『運命の雷』

2019-11-08 05:57:28 | ライトノベルベスト
スーパソコン バグ・1
『運命の雷』      



 また雨かよ……オデコに感じた雨粒を疎ましく思った。
 
 次の瞬間、突然の閃光があたしを貫いた……そして、気づいたのはベッドの上だった。

 最初はなにがなにか分からなかった。なんで病院のベッドにいるのか、自分になにがおこったのか……。

「ま、麻衣子!」
「あ、峯岸さん!」
 お母さんの声がひっくり返り、ナースのオネエサンはびっくりすると、二人同時にナースコールを力一杯押してドクターを呼んだ。そして、外したばかりのセンサーの端子やら、点滴やら、酸素吸入マスクをされた。
「そんなバカな、いま死亡診断書……ほんとだ!?」

 気づくと、わたしの両手は胸の上で組まれ、顔の横にはハンカチを少し大きくしたような白い布がずり落ちていた。その様子と、みんなの騒ぎよう、言うことを聞かない体……あたしはいったん死んだんじゃないかと思った。

 検査の結果、どこにも異常がないことが分かった。
 
 ただ、救急車で運ばれた時に心肺停止状態だったので、身ぐるみ剥がれて、AEDを何度もかけられ、人工呼吸のため肋骨を圧迫されて、あちこち痛かったことは確か。で、当然恥ずかしかった。

 だって、素っ裸だったんだよ! 大勢のドクターとナースの前で!

 検査が終わるころになって、いろんなことを思い出した。
 あたしは、部活が終わると、チャッチャと着替えて晩ご飯を買いに栄商店街に向かった。出来合いのトンカツなんかの総菜を買うと、ちょうど商店街のクーポンカードが満タンになった。

「オーシ、これで福引き一回!」

 くじ引きには弱い。ジュ-スの自販機のスロットルも当たったことがないし、年賀状のクジもサイテーの切手しか当たったことが無かった。
 でも、今日の部活はついていた。フェリペのソフボ部との練習試合。七回裏、わが神楽坂高の攻撃、4:1満塁のチャンスというか、サディスティックな神さまのイタズラか、惨敗とさよならホームランの境目……境目と思っているのは、この小説を読み始めたあなただけ。
 あたしを含め、メンバー、いや、試合会場にいたみんなが、この世の終わりと感じていた。

 なんせ、バッターボックスに入ったのは、入部以来、守備だけ人並み。試合と名の付くものでヒットを一本も打ったことがない、峯岸麻衣子……つまり、あたし。

 フェリペの守備も、キンチョーしまくりだったピッチャーも、明らかにリラックス。まあ、打順は運命……ってか、他の子が三振なんかしたら、もう傷ついちゃって、クラブどころか学校さえ辞めかねない状況だけど、あたしが討ち取られるのは、リンゴが木から落ちるように当然、あたしも含め誰も傷つかずに済む。
 ちょっちシニカルだけど、それが現実。

 しかし、ここで奇跡が起こった。

 フェリペのピッチャーが投球姿勢に入ったとたんに、とんでもない雷の音がした。ピッチャーは調子を崩され、そのまま力の入らないボールを、ストライクゾーンの真ん中に投げてきた。「しまった!」という顔と「しめた!」という顔が18.29m離れて交わされた。

 カキーン!

 バットは、ボールのど真ん中に当たり、セカンドをはるかに越えて、ホームランになった……!

 直後、三十分ほどのゲリラ豪雨。あたしは、人生で初めて「ツイテイル!」と、感じた。

 で、さっきの福引き。なんとあたしは一等賞を当ててしまった。一等の上に特等ってのがあって、バリ島旅行なんだけど、あたしは一等がよかった。
 一等は、最新型のパソコンだった。あたしは専用のパソコンを持っていない。

 福引きのオジサンに鐘を鳴らしてもらって、少々テレテレだったけど、チョー嬉しかった。で、そのあと、なんの前触れもなく太平洋ををひっくり返したような雨になった。あたしは、大きいレジ袋に入れてもらったパソコンを頭に載っけ、家まで100メートルあまりの道を急いだ。

 そして、運命の雷の直撃を受けてしまったのだった……。


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