大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高安女子高生物語・107〔The Summer Vacation・10〕

2019-10-04 06:24:14 | ノベル2
高安女子高生物語・107
〔The Summer Vacation・10〕
            


 

 結局、仲間美紀は辞めていった。

「けっきょく、あたしを引き留めてくれはるのは、明日香さん自身のためなんでしょ?」
「……せや、うちのためや。やっと軌道に乗りかけた6期、このまま仲間を減らしたら、みんなへの影響が強すぎる。うちの使命は一人も欠かさんと、きちんとメジャーにすることや」
「それで、ええんです……」
 美紀は、精一杯の笑顔を作ったかと思うと、ベッドの蒲団を頭からかぶって泣き出した。
――仲間は、ほんまに仲間やねんで――いう決め台詞は言える空気やなかった……。

「あの子は精神的にまいってる。とにかく辞めさせるのが一番。治療はそれからです」

 お医者さんの意見で、笠松プロディユーサーも、市川ディレクターも納得した。
 うちは後悔した。きれいごと言うて引き留めるよりは、四捨五入した本心でぶつかった方が仲間美紀には伝わると思たから。6期は、もうみんな家族や! 姉妹や! ほんで、うちが一番のお姉ちゃんや! そない思てた。せやけどなんにも分かってなかった。危ないのは和田亜紀と芦原るみやとばっかり思てた。リーダーやのに、うちはなんにも見えてなかった。

「まあ、一人二人抜けるのは織り込みずみだから、気にすんな明日香」

 市川ディレクターはビジネスライクに、一言でしまい。下手に慰められるよりは、気が楽やった。
 夜はステージが終わった後、ローカル局のトーク番組があった。
「美紀のことには触れんように。こっちのディレクターにも話してあるから」
 市川さんに言われた通り、うちもパーソナリティーも美紀のことは無かったみたいに、ロケの話やら、アホな話で盛り上がった。

 家に帰ったら、日付が変わってしもてた。メールのチェックもせんと、ざっとシャワー浴びて、そのまま寝てしもた。

 スタジオ入りまで時間があるんで、美紀の病院へ行った。面会時間やなかったけど、ナースステーションに寄ったら「もう落ち着いてるからどうぞ」て言われて病室へ。
 ところが、部屋に入ったら美紀の姿が無かった。

――明日香、トイレに行け!――正成のオッサンが、うちの心の中で叫んだ。

 トイレに行くと、個室二つが閉まってた。一つはノックしたらすぐにノックが返ってきた。もう一つをノック……反応が無い。
――ここや!――
 正成のオッサンの声に体が反応した。ヒョイとジャンプして、個室の上に手を掛けると、自分でも信じられへんぐらいの身の軽さで個室の中へ。
 美紀は手首を切ってぐったりしてたけど、うちの姿を見ると暴れだした。血まみれになりながら緊急ボタンを押して、美紀のみぞおちに当て身を食らわせた。

 切って間が無かったんで、美紀は助かった。

 このことは、秘密にすることになったけど、血まみれのうちと美紀をスマホで撮ったドアホがおって、あっという間に動画サイトに投稿され、手におえんことになってしもた……。
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