大橋むつおのブログ

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REオフステージ(惣堀高校演劇部) 002・生徒会副会長瀬戸内美晴

2024-04-16 08:02:35 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)

002・生徒会副会長瀬戸内美晴                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです




 大阪府立惣堀高校は今年で創立110年になる。


 北野高校や天王寺高校ほどではないが、ナンバースクールというか伝統校というか、それなりの評判の有る学校ではある。
 
 かつては国公立大に二桁の合格者を出していたが、今は年間に数名関関同立をトップに中堅私学に合格者を出す準進学校というポジションである。

 校舎や設備は昭和どころか大正時代の趣を残し、旧制中学からの敷地は大阪市のど真ん中の割には広々としていて映画やテレビのロケに使われることも多い。

 連ドラで主人公が告白されたコクリの楓。正門から校舎にいたる緩いカーブのマッカーサーの坂。モンローの腰掛け石。太閤下水。校舎自体も吹奏楽やダンス部をテーマにしたドラマやアニメの舞台になった。

 オープンキャンパスの参加者の半分は、そういう校内の名所旧跡が目当てと言われるくらい。

 要するに見てくれの良い学校である。

 その見てくれの良い中でひときわ雰囲気のあるのが、旧校舎を利用した部室棟である。創立以来の二階建て木造校舎は、マシュー・オーエンという米人建築家の設計。大正時代に大阪財界からの寄付で建てられ、下手な鉄筋コンクリートよりもガッチリしている。

 東大阪の長瀬に東洋一の撮影所があったころから撮影にも使われ、昭和が平成になるころまでは現役校舎だったので、昔は鉄筋の本館よりも有名だった。


 その部室棟一階東の外れに演劇部の部室がある。


 小山内啓介は、創立以来の重厚な机の上にお握り2個と冷やし中華を並べて思案している。

「やっぱ冷やし中華がクライマックスか……でも、おにぎりを連続で2個というのんもなあ……中盤に冷やし中華……ラストが弱い……いっそ幕開きにドッカーンと冷やし中華か……ああ、悩ましい!」

 このハムレットぶりで分かるように、啓介はヒマ人なのだ。

 教室まるまる一つ分の部室には啓介一人しかいない。

 たまたま一人なのではなく、この1年間、演劇部員は啓介一人しかいないのだ。

 去年入部したときには先輩が一人いた。それも転校予定で、入部しても早晩一人ぼっちになることは目に見えていた。じっさい二学期には、たった一人の演劇部になってしまった。

 啓介はそれでよかった。

 もともと芝居がやりたくて入った演劇部ではないのだ。

 広い部室を事実上自分の個室にして、快適なキャンパスライフをエンジョイしたいというのが動機である。

「よし、やっぱ冷やし中華はクライマックスや!」

 結論を出すと啓介は冷やし中華を冷蔵庫に仕舞った。もともと昼休みに食べようと思っていたのだが、トラやんとセーやんに誘われて食堂に行ったので、放課後のお楽しみになったのである。まあ、そう決意したので冷蔵庫で冷やしておいた冷やし中華は、コンビニで買った時と同じくらいに冷えて食べごろになっていた。

 それは2個目のシャケお握りを食べ終わり、冷蔵庫を開けて冷やし中華でフィナーレにしようと思った時に現れた。

 コンコン

「ああ、開いてんで~」

 トラやんかセーやんかと思い、気楽に答えると、意外な人物が入って来た。

「演劇部部長の小山内くんやね?」

 宝塚の男役のようにキリリと現れたのは、生徒会副会長の瀬戸内美晴であった。

「あ……瀬戸内さん……なんの用やろか?」

 啓介は美晴が苦手である。

 たいていの女子は緩めているリボンを第一ボタンが隠れるほどにキッチリ締め。溢れるオーラはエルフの魔法使いの師匠のごとくで、のんびりした空堀高校では異質な押し出しがあり、関わると自分の本質的な弱点をえぐられそう。

 一年の時は同級生だったが、ほとんど口をきいたことも無い。

 で、美晴は開口一番、啓介の心をえぐってしまった。

「演劇部の部室を明け渡してほしいの」

 ウップ!?

 冷やし中華どころではなくなってしまった……。  




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