大橋むつおのブログ

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連載戯曲・エピソード 二十四の瞳・7

2020-04-07 06:06:21 | 戯曲

連載戯曲

エピソード 二十四の瞳・7        

 
 
 
 
時  現代
所  東京の西郊
 
登場人物
 
瞳    松山高校常勤講師
由香  山手高校教諭
美保  松山高校一年生
 
 
由香: よし、今度は瞳の採用試験合格を祈って……!
瞳: それはいい。
由香: え?
瞳: あたし、もう辞めようと思ってんの。
由香: ……どういう意味?
瞳: 教師になるのやめようと思って……。
由香: なに言ってんのよ、らしくもない。たった三回試験に落ちたぐらいで。
 たった今わたしを励ましてくれたところじゃないの! 自信を持とうよ、自信を!
瞳: 違うの。教師って仕事そのものに魅力を感じてない、感じなくなった。
 写真見てつくづく思った。まあ、もともと車に乗るための金と時間欲しさのデモシカだけどね。
 見ると聞くとで大違い、三年やって、場違いだってのがよくわかった。
 さっきも言ったけど、教育は掛け算なんだよ。
 ゼロやらマイナスの子たちばかり相手にして、空っぽの卵のカラだけいじくりまわしてると……
 なにか、自分の持っている数字まで小さくなっていくような気がしてね。
由香: 考えすぎだよ、そんなのやってるうちになんとかなるって。
瞳: 由香は感覚が違うのよ。学校も、山手みたいな温泉学校にいるから。
由香: 瞳だって、試験に受かって正式採用になれば変わるわよ。
瞳: 夕方、グチこぼしてたのはだあれ?
由香: グチぐらい誰でもこぼすでしょ。みんなグチこぼして、なけなしの元気を絞り出してやってるんじゃない。
瞳: あたしのはグチじゃあないの。
由香: じゃ、なんなのよ?
瞳: 魂の慟哭……。
由香: ドーコク?
瞳: 聞こえない? あたしの心臓が血の涙流して泣いてんのを!? 
由香: お酒も飲まないで、よくそんな台詞が出てくるね。
瞳: 言ったでしょ。由香とあたしは感覚が違うって……ちょっと、このチューハイ半分まで飲んでくれる?
由香: え……うん(半分飲む)これでいい?
瞳: この半分のチューハイを、由香はどう表現する?
由香: え……そうだなあ、まだ半分残ってる。
瞳: だろうね、由香は、のび太君みたいな性格だもんね。
由香: それって? 
瞳: 依頼心は強いけど、憎めない楽観主義で、いつも人が助けてくれんの。
由香: それって……。
瞳: 誉め言葉のつもりだけど。だって、人柄が良くなきゃ、だれも助けてくれないよ。
由香: じゃ、瞳は?
瞳: もう半分しか残ってない……あたしの心もちょうどこのくらい。その残った半分の心が、もう決めちゃったのよ。
由香: 何を?
瞳: あたし、二学期いっぱいで辞めよって決めた。
由香: 辞めて……どうすんの?
瞳: この秋から、姉ちゃんがダンナといっしょに長野でペンション始めたの。
 あたしもちょこっとだけ出資してんだけど、そこで働こうかと思って。
 姉ちゃんも、アルバイト使うよりは、身内のほうが気楽だろうし。
 ちょっぴり大きめのペンションだから、人手もけっこう大変なんだ。
由香: だけど……。
瞳: だーかーらー……夜の山道ぶっとばそうよ!
由香: えー、ローリング族とか出るんじゃないの?
瞳: 大丈夫よ、週末じゃないし。
 そんな奴らが走らない道だし、制限速度は三十キロしかオーバーしないから。
 そのために、あたしウーロン茶しか飲んでないんだよ。ね、山頂からの夜景は絶品だよ!
由香: いや、だけど……。
瞳: あたし車とってくるから。由香は、お勘定の方よろしくね(伝票を渡して去る)
由香: あ、ちょっと! 瞳い!

 暗転


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