大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・93「演劇をやってこその演劇部よ!」

2020-04-07 06:00:01 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
93『演劇をやってこその演劇部よ!』
          



 

 演劇なんてしたことのない演劇部。

 だもんだから、いざ、文化祭でやるとなったら、なにをしていいか分からない。

 知識も経験もないし、学校の必ず途中で寝てしまう芸術鑑賞以外で演劇なんて観たこともない。

 それで図書室にいくことにした。

「演劇の台本て戯曲っていうんだね」
 机の上に「なんとか戯曲大全」とか「かんとか戯曲集」を積み上げて感心する。
「それって知らなさすぎ」
 一応演劇をやっていたころの演劇部を知っている須磨先輩がジト目を向けてくる。
「でも、今から読むん……」
 啓介先輩が、早くもうんざりしたような顔でページをめくる。
「これ、手でめくりなさい」
「すんません……」
 啓介先輩は、シャーペンの尻でパラパラやっているのだ。
「あっちはどうなんだろ……」
 パソコンコーナーで検索中のミリーとミッキーに目を向ける。

 視線を感じてミリー先輩が車いすを転がしてくる。

「条件悪すぎだよ」
「そうなん?」
「たった五人でさ、たった一か月でやるのって無理よ」
「そない言うてもなあ……生徒会には義理があるしなあ」
 
 それは同感、生徒会というか美晴先輩に借りがある。
 相当無理を言ったり無茶をしたけど、演劇部の存続を認められたのは美晴先輩の働きだ。
 二階の新部室を斡旋してくれたのも美晴先輩。
「だから、文化祭で演劇してくれる?」
 断れないわよね……将来的にも無為徒食の演劇部を存続させるには、美晴先輩のアドバイスは正しい。
「『高校演劇』で検索してたらね、演劇をやろうという者は、やりたい芝居の五本や十本は持ってなきゃだめだって」

 時間と人数以外にも問題がある……みんなは言わないけどね。

 わたしとミリー先輩は車いすでしょ……ただでも少人数なのに、ミリー先輩は本番までには治るかもしれないけど。
 黒柳徹子さんは車いすでやってたけど、そうそう上手くいかないと思う。
 ううん、元々舞台に出ようなんて気持ちは無いけど、裏方やるにしてもね……現実的には厳しいと思う。

 パソコンコーナーが賑やかになった。

 ミッキーの横に八重桜……いや、敷島先生が寄ってきて英語で喋ってる。
「あ、通訳しなくっちゃ」
 ミリー先輩が車いすを向けるのと敷島先生がハイテンションでこっちを向くのが同時だった。

「演劇をやってこその演劇部よっ!」

 明石家さんまを女にしたような満面の笑みでテーブルに近づいてきた。
「文化祭でやるんだから、長い芝居はだめ。出し物がいっぱいあるんだからね、観客は素人ばかりだから、予備知識の有る出し物が一番よ! 多少台詞が聞こえなくても、ああ、このシーンはこういうことを言ってるんだって分かるものが良い。あなたたちにも予備知識があれば稽古もやりやすいでしょ!」
 好きな先生じゃないけど、さすがは文芸部顧問、言っていることには説得力がある。
「なんか適当な芝居あるんですか?」

「あるわよ!」

 さすがは図書室の主、まるでスケートを履いているようにスイスイ机や書架の間を滑っていくと一冊の本を持ってきた。
「これよ、これ!」
 バサッと置かれた本に須磨先輩の頭に電球が点いたような感じ。
「そうか『夕鶴』ならピッタリだ!」
「「「夕鶴……?」」」
「鶴の恩返しよ!」
「「「「あ、あーーーー!」」」」
 全員の脳みそに共通理解の電球が灯った。

「それで、主人公は、沢村さん、あなたがおやんなさい!」

「え、ええ!?」

 心臓が停まるんじゃないかと思った!


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