いざ海外に出るとなると曜日の感覚が怪しくなる。今日が何曜日かわからない、あるいは何曜日でも構わないような気がしてくる。
私の場合もそうであった。サンクトペテルブルクからヘルシンキへ列車で着いたのはもう夜の時刻であった。しかし、白夜の国、まだまだ明るい。
ヘルシンキ中央駅に着いたものの、この国で通用するユーロはまったく持ち合わせていない。残っていたリーブルと、円とを両替しなくてはならない。
そこで到着早々、駅の案内担当のベストを着た人にエックスチェンジャーの所在を訊ねた。すると彼は、ある方向を指差したが、今日はもう終わってるといった。「Why?」に対し「Sunday」がその答え。更に詳しく訊くと、さっきまでやってたが日曜日は夜はやらないとのこと。
かくして、はじめて来た街へ、文無しで放り出されたのだった。
カードはあるからなんとかなるだろうと気を取り直し、少し道に迷ったが15分ほどで予約したホテルにたどり着いた。念のため、ホテルのフロントでエクスチェンジはしているかと訊いたら、していないけど明日の朝からここでしてくれると地図にマークをしてくれた。そこはいま通ってきた百貨店だった。
「百貨店でエクスチェンジ?」と訊ねると、「いやその7階にBankがある」とのこと。まだ黄昏時のようだが、なんやかんやでもう午後10時ぐらい。サンクトペテルブルクを発って以来、飲食はしていない。なんとか胃の腑を満たさなければならない。
フロントの女性(とても親切でかつ丁寧であった)は、よかったらうちで食べれば、精算はチェックアウトの折にといってくれた。でも、貧乏旅行で、ホテルのレストランで洒落込む余裕はない。
すると彼女は、隣のオープンレストランのようなところを指差して、同じ経営だからここでどうだという。渡りに船と、そこへ座を占める。ウエイターは若くしなやかな黒人男性で、素晴らしくよく通る声でスローリー&クリアリーな英語で注文を聞いてくれる。
とりあえず一品を頼み、赤ワインを注文する。それにとどめておいてよかった。エビやらサケやらのシーフードをベースにしたサラダ風の盛り合わせなのだが、それが実にビックサイズなのだ。パンをコンガリさせたものも入っていてそれで充分だった。ワインをお代わりする。それで16ユーロ、つまり1,900円ほど。
しなやかな黒人男性の、センキューの笑顔に送り出される。
ところで、今日が日曜日ということは明日は月曜日だ。そこでふと思い当たることがあった。フロントに走って確認する。そうなんだ、この国でも日本同様、月曜日は美術館関係は休館なのだ。
にもかかわらず、冒頭に書いたように曜日に無頓着だった私は翌日の月曜日に、ふたつの美術館を含んだコースを予定していたのだ。部屋へ帰り、PCをつないでいろいろ調べ、予めの予定を変更したスケジュールを作成し直した。ああ、この段階で思いついてよかった。
北欧の夏の夜は遅い。もう午後11時過ぎなのに、なんとなくざわめいていて、ホテルの窓から見える通りやオープンレストランにも客がたむろしている。もう一度街へ出たい誘惑があったが、今日の移動の疲れや明日の予定を考えて断念。日頃の睡眠障害も何のその、バタンキューで眠りにつくことができた。
*写真はいずれもヘルシンキ市内で