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岐阜に春を呼ぶ「二重協奏曲」と「第五」 大阪フィル定期演奏会 

2022-03-23 00:19:00 | 音楽を聴く

 毎年、春を告げるのは花だよりが一番多いだろう。それらを受容し、ときにに私自身がそれを発信する。
 しかし、この視覚を刺激する春の訪れとともに、聴覚を訪れる春もある。小鳥たちのさえずりもそうかも知れない。 だが私にとってもう一つ耳からやってくる春は、毎年三月に行われる大阪フィルハーモニー交響楽団の岐阜定期演奏会である。ここ2 、3年はコロナの影響などもあって少しごちゃごちゃしているが、今回は第45回を迎える。
 
 このうち、おそらく私は20回ほどは聴いているのではないかと思う。というのは二〇年ほど前に経営していた居酒屋を閉め、コンサートへ行く時間的余裕ができたころ、岐阜サラマンカホールでふと出会ったのがこの大阪フィルの岐阜定期演奏会であった。その折の重厚な音がすっかり気に入って、以来、毎年三月の岐阜定期演奏会にはほとんど欠かさず行っている。

          
                 開演三〇分前のサラマンカホール

 なお、大阪フィルとサラマンカホールは縁が深く、これらは後で知ったのだが、このホールのこけら落としは大阪フィルであったし、同フィルが「第〇〇回定期演奏会」を名乗るのは地元大阪のほかは、東京とこの岐阜のみなのである。

 今回の指揮者は地元名古屋(東海中・東海高ー東京芸大)出身の角田鋼亮氏。まだ40代前半のフレッシュな指揮者だがその活躍の場は国内外にけっこう広い。その演奏は若さとパワーが漲る歯切れのいいもののように思った。

 目玉はヴァイオリンの辻彩奈さんと、チェロの堤剛氏の共演。前者は1997年生まれで後者は1942年生まれ、その年齢差55歳。
 辻さんは地元岐阜県大垣市出身で、11歳にして名古屋フィルと共演するなどの才能の持ち主。2016年、モントリオールの国際コンクールで第一位を獲得以来、まさに国際的に活躍している。
 堤氏は言わずとしれたチェロの大御所で、1960年、当時の日本放送交響楽団(今のN響)が世界一周公演を挙行した際、若干18歳のソリストとしてそれに帯同している(なお、当時まだ16歳だった故・中村紘子さんも同行)というから、現役60年以上という息の長い演奏者である。

 小手調べのモーツァルト「魔笛」序曲のあとは、ブラームスの「ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 イ短調 作品102」。

 曲は何かを問いかけるようなフレーズの繰り返しで始まる。その直後にソロ楽器(VnとVc)の掛け合うような演奏が始まる。とくに第一楽章にはカディンツアではないが、ソロ楽器のみの強調された掛け合いが随所にあってとても楽しませてくれる。
 そして、聴き終わってみると、やはりブラームスだなぁと彼の術中に嵌った自分を見出す思い。

          
         左から指揮者角田氏、辻彩奈さん、堤剛氏(角田氏のTwitterから引用)
         それにしても、三人のなにか厚みを示すような指のポーズが意味するものは?


 休憩の後はベートーヴェンの第五「運命」。
 世界中にはいろんな音がある。高低、長短、音色の違いなどなど…。音楽はそれらを組み合わせて表現へと構成する。しかし、この第五ほど隙きなく緻密に構成された音楽はあるだろうか。毎回、その事実に感嘆する。しかもそれは、その構成のために情感を犠牲にすることはない。
 様々な思いを漂わせて、それらをすべてまとめ上げるようにして音楽は終わる。
 そして、その終焉には決然とした爽やかさが残る。

 もっともこれは、ヨーロッパ近代合理主義的な、ある種形而上学的な整合性への憧憬であり、一方での、モーツァルトのスキゾフレーニーともいえる破格への志向も捨てがたいといい添えておこう。

 会場を出ると、あちこちから花だよりがという時期ではあるが、ブルブルッと身震いするような夜気がそこそこの寒さを伴って攻め寄せてきた。

           
独奏者アンコールは、二人によるピチカートのみによるシベリウスの「水滴」
 オケのアンコールは、どこかで聴いた曲だとは思ったがわからなかった。出口の掲示を見たら、ベートーヴェンのピアノソナタ第八番「悲愴」の第二楽章をオーケストラ用に編曲したものだった(編曲者・野本洋介)。


【角田鋼亮氏の翌日のTwitterから】昨晩は大阪フィルと岐阜定期演奏会でした。公開ゲネプロにも沢山のお客様にお越し頂きました。堤さんと辻さんの音楽そのものと化した様な存在に導かれ、会場全体が共振していたような気がしました。大阪フィルと三回目のベートーヴェンの第五番も、内的燃焼度の高い演奏で楽しかったです。


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