同じ岐阜市に住んでいても、なにかの用件でもなければ北部へはあまり行くことはない。たまたまそちらの方へ行く機会があったので、ひょっとしたらと寄り道をしてみた。そしてその寄り道はまことに正解であった。
お目当ては岐阜金華山の北の山麓にある通称「鵜飼い桜」であった。樹齢は百年以上といわれ、幹周り約2.5m、高さ約8mの大木で、枝張りは16mに達する。
この桜、なぜ「鵜飼い桜」といわれるかというと、この樹に付く花の量で長良川鵜飼いの漁獲量を占ったからだという。
これはエドヒガンザクラで、ソメイヨシノより開花が一週間ほど早い。
3月26日、この日に立ち寄って大正解だったのは上に述べた通り。ここのところの暖かさで、ソメイヨシノもどんどん満開に近づいているのだが、鵜飼い桜はまさにその頂点、これ以降は爛熟期に入ろうとする段階であった。
微風しかなかったのだが、それでもそれに連れて、幾ばくかの花びらがチラホレヒレハラと宙を舞う風情はえもいわれず仇っぽかった。
もう二〇年近く前だろうか、亡母と、生まれてすぐ生き別れになった姉(その後四〇年ぶりに再会)と共にこの桜を見た折も、ちょうどこんな風情だった。
三者三様、どのような思いでこの桜を見上げたのか、今となっては推し測るすべもない。
岐阜県の桜といえば、「薄墨の桜」が全国区で名をとどろかせているが、私の心の桜といえばこの桜かも知れない。
他にも、胸キュンの思い出もあるのだが、それは墓までもってゆくことにしよう。