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「福祉国家」はどこへゆくのか 社会学の本を読む

2014-06-17 17:13:26 | 書評
 いわゆる社会学の本格的な学術書に関するものは読んだことはなくとも、知らぬ間に社会学者が書いたものを読まされている場合が多い。
 古くは清水幾太郎から見田宗介、吉見俊哉、上野千鶴子、今福龍太、大澤真幸、橋爪大三郎、宮台真司などなどで、私のような専門も何もない普通の読書人のほとんどは、彼らが「社会学者」であるかどうかも知らず、オウム事件や秋葉原事件、震災や原発について書いたものを、たいていは新書などで読んでいる。
 
 マスメディアや出版業界にとっても、小器用にアップ・ツー・デートな問題にジャーナリスティックに対応してくれる社会学者は便利な存在なのだろう。
 しかし、それらのなかには、専門の領域はいざしらず、ただただ勢いのみで、週刊誌に書かれているような見識(?)を専門用語のオブラートで包んだだけのようなものも散見できる。

             

 今回はそうしたジャーナリスティックな副業ではない、社会学*の専門書ともいえるものを読んだ。
 『福祉国家変革の理路 労働・福祉・自由』(ミネルヴァ書房)という書で、著者は新川敏光という人である。
 実はこの著者、SNSで知り合った方で、リアルには一度しかお目にかかっていないが、そのご専門の領域でいろいろご教示いただいたことのある人である。
 
 こうしたSNSやブログなどでは、私はおしゃべりで、あることないことしゃべり散らすのだが、この新川氏は普段は学者の矜持で寡黙ともいえる。しかし、ときおり、その著書などとの対照でいえば幾分感傷的ともいえるような文章を載せたりされることがある。
 これは悪口ではない。第一に、書かれた内容が実際にそれに相当しているし、第二に、そうした記述にその人の実存のようなものが垣間見えて、かえって信用できる面もあると思うからだ。
 SNSでのそのハンドルネームは敢えていわない。
 
 で、その書の内容であるが、ここでは詳しくは述べない。
 ようするに専門書なので、割合丁重に、PCでノートを取りながら読んだら、A4で12ポイントの文字にして18ページにもなってしまった。
 それでも雑な読み方で、別に社会学者になるつもりもないので、自分の関心の赴くままに、悪くいえば乱暴ないいとこ取り、よくいえばプラグマティックな対応で、誰それの学説がどうというディティールは省略させてもらった。

          
               私が取ったノートの一端

 ようするに、若き日以来の私のこだわりのような人びとの共存のありようなものを整理するために利用させてもらったわけで、「福祉国家」という20世紀の特殊な国民国家像が、グローバリズムと新自由主義によって崩壊しつつある今、どのようなアルタナティヴな道が考えられるかという問題を整理してゆく上でとても参考になった。

 ついでながら、その副産物として、著者がそうは名指していないものの、いわゆるアベノミクスが、福祉支出の削減と企業減税、そして社会的弱者の自己責任論など、福祉国家から新自由主義的競争社会への移行を絵に描いたように実践していることが眺望できる。

 最初に、専門的学術書と書いたが、著者にはやはりこれを著す志向性のようなものが歴然とあり、それを帯に書かれた《「理想の力」が切り拓く政治の可能性とは》が如実に表している。

          

 そのひとつの可能性としてベーシック・インカムが詳細に検討されているが、それ自身がある意味で革命的であり、なおかつその実現のためには革命的な変動を要するように思う。
 
 とりあえず、私にとってはその根底にある近代的労働観の批判、それと著者もちょっと触れているようにハンナ・アーレントの労働観との相関、さらには、幾分飛躍するが、ジャン=リュック・ナンシーの「無為の共同体」などとの関連を考えてみることが宿題として残った。
 
 最後に、新自由主義的競争社会の徹底は、さしたる抵抗勢力もない現在、ケインズ以前の、ある意味でプリミティヴな裸の資本主義として出現する可能性すらあることをいっておきたい。
 さらには、もはや諸個人にはいかんともしがたいこの膨大に堆積されてしまった科学技術が生み出した物量と情報の大海、それらのなかで私たちは盲目のままの疾走を余儀なくされるのだろうかという文明史的課題もまたオーバーラップしてあるように思う。

 取ったノートを読み返し、反芻しながら、さらに考えてみたい。


私の早とちりで、新川敏光氏を社会学者として紹介してしまいましたが、確認をしましたところ、ご専門は、「政治過程論、比較福祉国家研究」でした。
 文意が崩れますので、文中では訂正しませんでしたが、ここにお詫び方々、訂正させていただきます。

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